「経済学からみた原子力発電」

「経済学からみた原子力発電」by 伊東光晴(経済学者元京大)
『世界』2011.11月号

(全体に非常に難しく、正しく読めたという自信はない。立場上、政府の中枢のことにも詳しい人なので他の論文には見られない貴重な指摘がある。特にこの論文は読者が直接読んで頂きたい。)

・原発は未完成の技術、放射性廃棄物を処理する技術がない。

・電力会社が喜んで買う価格は、夏の平日の昼間が7.8円/kWh、10月から6.20までの昼間が6.2円/kWh、その他は2.5円/kWh。

・太陽光発電パネルは量産されているにもかかわらず発電コストは下がってはいない。技術進歩が停滞している。

・21世紀の前半は液化天然ガスLNGによる火力発電に頼らざるをえない。

・地熱発電が国立公園の中ではできないという法律が地熱発電の立地を不可能にしている。原発の環境への悪影響に比べたら地熱発電の影響は問題にならない。規制緩和というものはこんな分野でこそすべきで、小泉改革のように戦後日本の労働政策の憲法を変えて派遣労働者をふやすような政策を推進してはならない。

(地熱発電も風力発電も景観を壊すという人がいる。私は未だ地熱発電を見学したことはないが、風力発電の風車が回っていると嬉しくなる。景観というものは観た人の環境意識によって変わるようだ。国立公園には国の政策を象徴するようにそれらをどんどん設置してほしい。)

・原発売却して東電は被害者に補償せよ、は間違い。発電設備には対応する負債がある。金融機関がそれを許すことは有りえない。

・発電部門を分離し、複数の企業に分割する考えは、現実を知らない。

・自然エネルギーが高いことや不安定であることは電力会社の責任ではない。

(経産省に働きかけて自然エネルギーの開発に力を入れないようにさせた、間接的な責任はあるのではないか。)

・発電・送電・配電が統合していることは望ましい。今でも、新規企業が発電部門に参入することは自由である。その取引所もある。参入企業の発電コストが高くて競争になってないのである。分離・分割のデメリットはアメリカやイギリスで出ている。

・保安院の西山審議官は10年末まではTPPの旗振りをしていた人。そんな人が突然原発の専門家になれるはずがない。他の保安院の幹部についても同様の危惧を抱く。

(では一体誰が彼らの原稿を書いたのであろうか。保安院を追及すると電力会社がきちんとやっている、と応え、九電に追及すると、保安院がちゃんと検査している、と言う。ストレステストについて、答案が出た後で満点になるように採点基準を決める愚かさ、という批判があるが、原発全体がそのようになっているようだ。)

・原発の定期点検では3ヵ月かけて7万点の点検をすることになっているが、放射線の下できちんとされているか否か、分からない。東京新聞だけしか報道しない。平井さんによると定期点検のたびに放射性物質は外に出ている。

(伊東さんが、平井さんや菊地さんの証言を読んでいることに脱帽)

・電力会社は自らの責任で原発の整備・点検をやってないし、する能力もない。

・整備・点検はメーカー(日立・三菱・東芝)にさせて、賠償も彼らにさせるべき。

・原子力安全保安院や原子力検査協会を廃止すること。彼らは何の能力もない。保安院を経産省から環境省に移しても改善にはならない。

・東電の社長・会長を務めた木川田一隆さんは企業の政治献金を止めた人。彼は被爆国の日本は原発をすべきではないと反対していたが、後に受け入れた。

・原発推進の基本方針は資源エネルギー庁が決める。これが全国の原発を実質的に管理している。

・老朽化した原発は即時中止しなければならない。最も危ないのは、玄海1号機であり、美浜1号機、2号機、大飯2号機、高浜1号機が続く。これらの原発はいずれもウェスティングハウスWH社の設計だが、同社は30年として設計している。GE社は40年で設計しているというが、福島第一原発の実情からして疑わし い。少なくとも30年を過ぎたものは廃炉にすべき。

・コンピュータでストレステストをするよりも原子炉を直接調査すべきだ。

・脱原発への道は短期的には節電だ。といっても、これまでの電気は使い過ぎだ。今年は適正な水準になった。中長期的には、LNGガスコンバインドサイクル発電の利用。

・リニア新幹線は最悪。これを中止し、この資金を発電所建設に回すこと。JR各社の中で発電所をもっているのはJR東日本だけ。他の社も発電所を持つべき。

(全体として、太陽光発電や風力発電の評価が低く感じたが、ドイツやデンマークの取り組みに対してはどう考えているのか、分からなかった。飯田さんの反論があれば是非読みたい。)

(堤静雄 2011/12/16)