集会「学術会議会員の任命拒否問題と学問の自由」
集会「学術会議会員の任命拒否問題と学問の自由」
上記の集会を以下のように開きます.
日時:11月21日(土)午後1時〜3時
会場:久留米大学福岡サテライト・天神エルガーラオフィス6階
講演:(1)「学術会議任命拒否の法的問題点」 レジュメ 徳永由華・弁護士
(2)「学術会議任命拒否の政治的側面」 レジュメ 石川捷治・九州大学名誉教授
共催:日本科学者会議福岡支部
日本学術会議会員の任命拒否に抗議する九州大学関係者有志
会費:無料
※ 簡単な集会アピールも出すことも検討しています.
※ ZOOMでネット配信します.下記からZOOMでご参加ください.
<関連資料>
・日本科学者会議福岡支部 声明文
・日本科学者会議福岡支部 菅首相への要請文
・日本科学者会議 事務局長談話
・日本科学者会議 声明文
・福岡県弁護士会 声明文
<報告>
学術会議会員の任命拒否に抗議する集会がコロナ禍の中でもネット参加を含めて24名の参加で開催されました.
当日の講演レジュメは上記の講演題目の次をクリックすることで見ることができます.また,当日の集会内容の動画もここの「当日の集会動画」をクリックすることでご覧いただけます.
また,次の「集会アピール」が参加者の総意で採択されました.
10月1日に学術会議の推薦する新規会員の6名が菅総理によって任命を拒否された問題が明らかになって以降、JSA福岡支部でも10月5日に緊急のオンライン会議を持ち、10月6日に声明「日本学術会議の新規会員に対する理由不明な任命拒否は学問の自由を侵す」を発出し、菅総理宛に「日本学術会議の要望を速やかに受け入れてください」という要請書を提出し、この任命拒否が学術会議法違反だけでなく、憲法23条「学問の自由は、これを保障する」を蔑ろにするものであることを指摘し、抗議の意志を表明してきました。また、福岡の大学でも、九州大学関係者有志は「菅総理は法に従い10月3日付けの日本学術会議の要望を速やかに受け入れてください」という要請を、福岡大学教員有志は、緊急声明「日本学術会議第25期新規会員任命に関する要望を支持する」を発出しています。
JSA福岡支部と九州大学関係者有志は、この菅総理による任命拒否が法的に、また、政治的にどういう意味を持つものかを検討・討議する場として、11月21日に集会「学術会議会員の任命拒否問題と学問の自由」を共催しました。集会は、新型コロナ第3波の到来のため会場の収容人員の制限もあり、20名ほど会場参加とオンラインでの配信となりました。オンライン配信は、当日数名の方が受信されています。
集会では、徳永由華弁護士が「学術会議任命拒否の法的問題点」と題して、菅総理による任命拒否が学術会議法違反であるだけでなく憲法に規定されている「学問の自由」にも抵触するものであることを詳細に解説されました。また、弁護士会でこの問題に対する抗議声明を検討する場において、弁護士の中からも今回の任命拒否を「学問の自由」の侵害と考えないという意見もだされ、その状況に危機感を感じたとのお話もありました。また、国民向けの法的支援を行う中心的な機関として設立された「法テラス」も、国の財政支援を受けて活動しているが、その活動も今後影響を受けるのではないかとの危惧も示されました。
続いて、石川捷治・九州大学名誉教授が「権力の論理と学問の論理—学術会議任命拒否の政治的側面」と題して、安倍・菅政権が「半クーデター」とも言えるような、法を無視した強権的な政治を行ってきていることを解説されました。また、戦前の「人民戦線事件」を例に、安部・菅政権に様々なところでほころびが出てきており、今、この任命拒否問題を契機に学問の自由の論理を体現するのが「新しい人民戦線」であり、そこに今後の展望を見いだしてゆくべきだと指摘されました。
討論の時間では、会場参加者から今後この問題をうやむやにさせないようにしてゆくにはどうしたらよいのか、世論を高めてゆくためには学術会議自体の毅然とした対応も含めて具体的な行動を強めてゆかないと行けないといった意見が出されました。また、政権の無法で強権的な態度やそれに対するマスコミの対応の劣化を指摘する意見も出されました。さらには、この政府の違法な問題に対して司法を通じた法的な取り組みは可能かと言う問いかけも出されました。
最後に、「集会アピール」を採択し、官邸へ提出しメディアへの通知をすることを確認しました。集会の録画・資料はこのサイトの頭の部分にあります。
以下に、その後の状況の推移と私見を少し述べさせていただきます。国会において野党はこの菅総理による任命拒否問題を取り上げ、様々な面からその違法性・違憲性を追求してきています。それに対して菅総理が論理の破綻したしどろもどろの答弁を繰り返し、かたくなに6名を任命しなかった理由を開示しようとしないまま国会は閉会してしまいました。
一方でこの問題を、いわゆる「ご飯論法」のように、菅総理による違法な任命拒否という法治主義・民主主義をないがしろにした強権的な姿勢を正すべき問題を学術会議のあり方の問題にすり換え、火事場泥棒のように学術会議自体を変質させようという動きが自民党を中心に出てきています。そこでは、すでに拙速極まりない議論でもって学術会議を政府とは「独立した組織」にしようという案を出してきています。科学の民主的な発展を願う科学者会議としては、「学術会議が政府組織でありながら、時の政権とは独立に政府に科学・政策科学に関する勧告・提言を出せるという極めて高い民主主義的な仕組み」を安易に解体させない運動を強めていかなければなりません。
そのためにも、まずは学術会議の菅総理に対する要望、「6名の任命と任命拒否の理由の開示」を支持し、後押ししてゆく必要があります。菅総理は、国会会期末の記者会見において、学術会議が推薦した6名の新規会員候補の任命拒否問題について、記者から改めて任命拒否の理由を問われると「任命権者として適切な判断を行った。理由については人事についてお答えを差し控える」と強調し、任命されなかった6人の候補には「手続きを終わっているので、新たに任命を行う場合は、学術会議から推薦が必要だ」とコメントしたと報道されています。学術会議としては、すでに6名を任命するよう要望を出しているわけですが、この記者会見での菅総理の発言を捉えて再度6名を推薦することも必要かもしれません。
また、菅総理は国会答弁で、「以前から学術会議に対して抱いていた「懸念」について杉田氏らに伝え、杉田氏からその後に相談があり、「(6人を除外した)99人の任命を判断した」と説明していました。それに関連しての野党の要求に沿って参院予算委員会理事に内閣府から、手書きで「外すべき者(副長官から)」と記載され、杉田氏の関与が明確に示された資料が提出されました。しかし、肝心な任命拒否された6人の名前、その理由などが記されていたと推測され部分は黒塗りで隠されています。一方で、「会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことを複数の政府関係者が明らかにした」という報道もあります。この資料の完全な開示を求めるとともに、引き続き任命拒否の理由の開示を求めてゆくことが重要です。
(報告者: 小早川義尚)
管首相への要請文
要請書「日本学術会議の要望を速やかに受け入れてください」
2020年10月6日
内閣総理大臣 管義偉 殿
日本科学者会議福岡支部
菅首相は日本学術会議の新規会員候補105名のうち6名の任命を拒否しました.これは憲法23条の「学問の自由」を侵害するだけでなく,日本学術会議法に違反し,これまでの国会答弁に反する明確な違法行為です.任命拒否の理由も決定過程も明らかにされていません.政府による日本学術会議への人事介入である由々しい重大事態と言わなければなりません.6名の任命拒否は,この6名に止まる問題ではなく,日本の科学者の代表である日本学術会議全体の問題であり,さらに会員を出している学会の問題であり日本国民全体の問題です.
日本学術会議法の第2章「職務及び権限」第3条に日本学術会議の職務は,①「科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること」,②「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」を独立して行うとされています.さらに同第5条には,①「科学の振興及び技術の発展に関する方策」,②「科学に関する研究成果の活用に関する方策」,③「科学研究者の養成に関する方策」について政府に勧告することができるとあります.
第3条の「独立して」職務を行うとは,日本学術会議は総理大臣からも独立しており,その指揮監督を受けないという意味です.また,政府に対して「勧告」するのですから政府の政策から独立した立場であることが前提です.それは,会の推薦する会員をそのまま任命するということでもあります(第7条2項「推薦に基づいて総理大臣が任命」).もし総理大臣に,推薦された会員候補の任命拒否が可能ならば,日本学術会議会員の構成が総理大臣の意向に左右されることになります.加藤官房長官は「学術会議は法律上首相の所轄であり,人事を通じて一定の監督権を行使することは法律上可能」と述べていますが,これは「所轄」の意味を恣意的に解釈したもので,そもそも日本学術会議は政府から独立した組織ですから,人事を通じた総理大臣による監督権など存在しません.1983年,当時の中曽根首相は国会で「政府が行うのは形式的任命にすぎない.学問の自由独立は保障される」と答弁しています.現行の日本学術会議法は,このような国会答弁のもとに国会で可決されたものです.
日本学術会議は10月2日に,貴職に「第25期新規会員任命に関する要望書」を提出しました.その内容は第25期新規会員任命に関して,①「2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり,推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい」,②「2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち,任命されていない方について,速やかに任命していただきたい」の2点です.福岡県の科学者をメンバーとする私たち日本科学者会議福岡支部は,貴職が速やかにこの要望を受け入れることを強く要請します.
(本文章は2020年10月6日午前に首相官邸サイトから意見として送信しました.また,福岡県政記者クラブにも同日午後に報道要請文とともに届けました)
日本学術会議への人事介入に対する声明文
声明文「日本学術会議の新規会員に対する理由不明な任命拒否は学問の自由を侵す」
2020年10月6日
日本科学者会議福岡支部
菅首相は日本学術会議の新規会員候補105名のうち6名の任命を拒否しました.これは憲法23条の「学問の自由」を侵害するだけでなく,日本学術会議法に違反しこれまでの国会答弁に反する明確な違法行為です.任命拒否の理由も決定過程も明らかにされていません.政府による日本学術会議への人事介入である由々しい重大事態と言わなければなりません.6名の任命拒否は,この6名に止まる問題ではなく,日本の科学者の代表である日本学術会議全体の問題であり,さらに会員を出している学会の問題であり日本国民全体の問題です.
日本学術会議法の第2章「職務及び権限」第3条に日本学術会議の職務は,①「科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること」,②「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」を独立して行うとされています.さらに同第5条には,①「科学の振興及び技術の発展に関する方策」,②「科学に関する研究成果の活用に関する方策」,③「科学研究者の養成に関する方策」について政府に勧告することができるとあります.
第3条の「独立して」職務を行うとは,日本学術会議は総理大臣からも独立しており,その指揮監督を受けないという意味です.また,政府に対して「勧告」するのですから政府の政策から独立した立場であることが前提です.それは,会の推薦する会員をそのまま任命するということでもあります(第7条2項「推薦に基づいて総理大臣が任命」).もし総理大臣に,推薦された会員候補の任命拒否が可能ならば,日本学術会議会員の構成が総理大臣の意向に左右されることになります.加藤官房長官は「学術会議は法律上首相の所轄であり,人事を通じて一定の監督権を行使することは法律上可能」と述べていますが,これは「所轄」の意味を恣意的に解釈したもので,そもそも日本学術会議は政府から独立した組織ですから,人事を通じた総理大臣による監督権など存在しません.1983年,当時の中曽根首相は国会で「政府が行うのは形式的任命にすぎない.学問の自由独立は保障される」と答弁しています.現行の日本学術会議法は,このような国会答弁のもとに国会で可決されたものです.
日本学術会議は10月2日に,菅総理大臣に「第25期新規会員任命に関する要望書」を提出しました.その内容は第25期新規会員任命に関して,①「2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり,推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい」,②「2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち,任命されていない方について,速やかに任命していただきたい」の2点です.福岡県の科学者をメンバーとする私たち日本科学者会議福岡支部は,この日本学術会議の要望書を支持します.日本学術会議には,今回の菅首相による特定の新規会員の恣意的な任命拒否を撤回させるまで,政府に働きかけることを望んでいます.
日本学術会議は,先の戦争において多くの科学者が戦争に協力してしまった反省の上に,1949年に日本の科学者を代表する機関として設立されました.世界の平和は軍事対応でもたらされることは決してありません.日本学術会議は1950年と1967年には軍事研究に関与しないという声明文を2度にわたって発表し,さらに2017年にも軍事転用が可能な研究への関与に慎重な姿勢を改めて示しました.会員の中には自分自身の研究成果に基づき,時の政府の政策に批判的態度を取る人もいるのは当然のことです.民主主義的な社会を支える基盤は多様な言論活動です.多様性は学術発展の前提であり,多様な意見の中から新たな発見・発展が生まれます.時の政府の政策に批判的態度を持つからといって,日本学術会議会員の任命を拒否されるような社会では,そのような発展は見込まれません.戦争をしないという憲法をもつ私たちは,時の政府から独立な立場の科学者の代表機関を持つことが大切であると考えています.
(本声明文は福岡県政記者クラブに2020年10月6日午後に報道要請文とともに届けました)