希望の国「キューバ共和国」(その2)教育制度について

 キューバでは、医療費がすべて無料であることは前回述べたが、幼稚園から大学教育まで教育費もすべて無料である。2002年から、小学校20人、中学15人、高校30人の学級を実現した。ほとんどの若者が高校を卒業し、18~24歳の青年の50%が高等教育を受けている。キューバの経済力は大変低いとはいえ、教育投資はGDPの12.3%を占める(2006年)。日本のGDPに占める教育費の公財政支出3.3%に比べて、キューバでは教育が如何に重視されているかが分かる。
 1997年の中南米統一国際試験(13カ国、3、4年生に算数と国語)におけるキューバの異常な高学力に驚いたユネスコは、成績抜群の生徒だけを選んで受けさせたのではないかと疑って、1998年に再試験を行ったが、結果に違いがないことが確認された。2008年、ユネスコの第二回統一学力試験は、中南米16カ国とメキシコのヌエボレオン州の小学校3年生と6年生を対象に行われたが、キューバが群を抜いており、他の国の最上位層の成績がキューバの平均にも達していない。
 ユネスコは、OECDの学力試験(PISA)で上位を占めるフィンランドとともにキューバを教育のモデル国として推薦しており、世界の教育専門家からも注目されている。フィンランドとの共通点は、教育と福祉政策が一体になっていること、グループ学習を重視し生徒達が刺激し合う相互学習を重視すること、そして、教育費や給食費も無料で平等な教育が行きわたっていること等である。もちろん両国に学習塾など存在しない。
 小・中学校にも進級テストがあり、合格しなければ留年となる。それは、すべての子どもの能力に信頼をおき、個々の持てる力をのばす、という教育方針によるものである。教育は地域のコミュニティによりしっかり支えられている。例えば、教育水準が高く、ゆとりのある家は「勉強の家」となり、放課後、週1~2回集まって宿題をしたりして一緒に遊ぶ。子どもたちの間には家庭が貧しいからと差別する意識がないので、心理的な貧困に陥ることはない。
 子どもの興味・関心を伸ばす教育として、「趣味サークル」という科目があり、農業、文学、芸術まで206の分野をカバーしている。7~8月にはサマースクールやキャンプによる授業が行われる。農業ではサトウキビや、豆、コーヒー、種子や土について学び、海の授業では魚釣り、ボート、ダイビング、を体験する。この目的のために、1975~78年に526のビーチハウスが作られた。これらは、日本のゆとり教育や総合学習とは異なり、子どもと社会とをつなげる準備活動の一環として位置付けられている。
 キューバの優れた医療と教育プログラムは、ベネズエラをはじめとしてラテンアメリカ諸国で次々に取り入れられている。そして、「自己中心主義を排し、他の人々を兄弟姉妹と考える様な思想」で育まれた若者たちが、医師や教師として世界の貧しい国々で素晴らしい国際貢献を果たしている。
 人類が持続可能な発展を望むなら、教育、医療、有機農業、環境への取り組みについて、キューバから学ぶことは多い。

文献:吉田太郎「世界がキューバの高学歴に注目するわけ」(築地書館,2008)

(2010/5/15 酒井嘉子)

希望の国「キューバ共和国」(その1)医療制度について

 1959年にカストロとチェ・ゲバラ率いる革命軍が米国の傀儡・パテイスタ政権を倒して国民のための政府を樹立してから50年が経過した。革命の理念である「人間の尊厳と社会的正義の追求」が50年を経た今も変わることなく生き続けていることは素晴らしい。カストロは「貧困と差別」をなくすためには「医療と教育」が重要であるとして、その充実に取組んだ。医療と教育は全て無償であり、識字率は99.8%で、高学歴の人が多い。

 キューバでは、癌治療から心臓移植まで医療費は無料である。大都市から過疎の山村まで福祉・医療が行き届いており、乳幼児死亡率は米国以下、平均寿命も先進国並みである。キューバの医療制度はWHOから世界のモデルとして高い評価を受けている。医療技術も高く脳外科や心臓移植、骨髄移植などの治療体制も整っている。医師数は1000人当たり6.5人だが、3分の1は途上国や自然災害の被災国への医療援助で国外に出ており、実質1000人当たり4人程度で日本の約2倍である。

 1959年の革命以来、キューバはラテンアメリカやアフリカの貧しい国に対して医師や医療技術者を派遣し、多大な医療援助をしてきた歴史があり2008年の医療対象国は81カ国にものぼる。ベネズエラでは2万人、ボリビアでは1100人のキューバ人医師がそれらの国の隅々まで無料医療活動を行っている。2005年10月のパキスタン北部の大地震では、延べ2400人の医療援助隊が5ヶ月間滞在し104万人を治療した。また、2006年5月のジャワ島中部地震では、135人の医療隊が3ヶ月滞在し、被災者だけでなく10万人の貧しい人々に治療を行い、野外病院で34人の新しい命が生まれている。

 1999年には、ハバナにラテンアメリカ医科大学が開設され、貧しくて進学できないという海外の医学生に奨学金を提供して受け入れ、医者になって祖国に戻り、貧しい地域で医療活動する医師を養成している。2005年に第一期卒業生が誕生した。現在、27カ国から約2万人が在学している。

 ホンジュラス出身のある留学生は、キューバに留学するにあたって周囲の人々から沢山の忠告をうけた。「キューバ人は餓死しているんだぞ」、「キューバでは子供が殺されているんだ」、「街角ごとに人々を弾圧する戦車がある」、「夕方まで働かされて夜勉強するんだ」等など。彼はサトウキビを刈るためのブーツを持参したけれども、もちろん必要はなかった。

 アメリカ発のこの種のデマは世界中にかなり出回っているようであるが、キューバの貧しい国への医療援助活動による平和外交は、米国の包囲網への対抗策としても大きな力を発揮している。例えば、2008年の国連の「キューバ経済封鎖解除決議」に185カ国が賛成し、反対は米国、イスラエル、パラオの3カ国だけであった。また、2009年4月の米州サミット(キューバは排除されている)の会終了後の会見で、オバマ氏は「各国の指導者からキューバの話を聞いて興味深かったのは、数千人のキューバの医師が周辺国に送られ、それら諸国がキューバの医師に深く依存していることだった」と述べたそうである。

革命博物館で出会った若き日のフィデル・カストロ
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革命博物館で出会った若き日のチェ・ゲバラ
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革命以前はアメリカの大富豪とマフィアのリゾート地であったカリブの海
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文献:田中三郎「フィデル・カストロ―世界の無限の悲惨を背負う人」(同時代社,2005)
   吉田太郎 「世界がキューバ医療を手本にするわけ」(築地書館,2007)

(2010/5/13 酒井嘉子)


イカとプルサーマル

 昨秋,呼子町(2005年の町村合併で唐津市呼子町)の波戸岬に行く機会がありました.呼子は風光明媚な土地として知られ,朝市やイカの産地としても有名です.季節によってヤリイカ,ケンサキイカ,スルメイカが獲れ,ケンサキイカが最もおいしいと聞きます.
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 現在,呼子町と九州大学が共同でイカを生きたまま搬送する技術の開発に取り組んでいます.
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ケンサキイカを生きたままで全国へ搬送
http://www.chiiki-dukuri-hyakka.or.jp/book/monthly/0807/html/f03.htm
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 活イカの飼育はエアレーションのみでは2時間までで,福岡市までは活イカを運べる範囲に入っています.それを,飼育可能な時間を延長し東京まで活イカを運ぼうという試みです.なお,イカの飼育に関してはコンラート・ローレンツが発言したりしていて,なかなか興味深いものがあります.
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ヤリイカ(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A4%E3%83%AA%E3%82%A4%E3%82%AB
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 余談ですが,下関の友人と話した折もイカの話が出ました.下関はフグの産地として全国に有名で,観光に力を入れた唐戸市場などもあります.下関でもイカが獲れるのですが,イカに関しては下関に水揚げするより呼子に持って行った方が高値で売れるらしいという話をしていました. (以下の3枚の写真は下関の唐戸市場)
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 呼子で,食事までの待ち時間に周辺を散歩していると,海の彼方に風車らしきものが見えます.
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 地図を調べると,波戸岬から玄海原子力発電所の方を見渡せることがわかります.
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 さらに,下記のような記述も目にとまりました.
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>みなさん、ご存じですか?九州で最大の発電所は、玄界灘からの強風を利用して発電する風力発電所に取り囲まれていることを。
http://www.nisa.meti.go.jp/safety-kyushu/mailmagazine/2007/03/2007030002.htm
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 私が撮った上の写真は,玄海原子力発電所とそれを取り巻く風力発電所だと思われます.風力発電所に取り囲まれる原子力発電所とはなんとも皮肉な構図ですが,どのような意図でこうなったのでしょうか.
 以前に,日本科学者会議 エネルギー・原子力問題研究委員会に属する福岡支部と佐賀支部のメンバーは玄海原子力発電所のプルサーマル計画に対して反対の申し入れを行っています.そのことは知っていましたが,私の頭の中で呼子の地とプルサーマルが結びつくことはありませんでした.
でも,これからは虚心で呼子の景色を,イカの味を楽しむことはできないでしょう.

(Y.N.)
(2010/05/06)