消費税増税と日本財界の知力

 昨年の7月の参議院選挙における民主党の敗因はさまざまな理由があるが,その中で最大のものは管首相の消費税導入についての突然の発言とその後の迷走であろう.有権者は,この参議院選挙で消費税増税についてきっぱりノーを突きつけたという見方はそれほど的外れとは思わない.しかし,何を血迷ったか,また民主党管政権は社会福祉改革との抱き合わせで消費税増税を図ろうとしている.この背景には,もちろん,財界の意向がある.いまの民主党政権は,財界と米国のお先棒を担ぐ点では,前の自民党政権とまったく変わらないようにみえる.

 長い間,日本の財界が消費税を増税しようとする理由が私には分からなかった.確かに,消費税を払うのは消費者であり,企業自身は消費者から預かった税金を国に納めることになるが,そのお金の中には自らのお金は1円も入っていない.しかし,消費税増税をすれば物が売れなくなり,企業は困るだろう.日本国内の消費マインドを悪化させても,自分が払わないですむ消費税増税を推進するほど日本の財界は幼稚ではないだろうと考えていた.日本の財界は,なぜ消費税増税を望むのか.その理由が,最近,分かった気がする.消費税還付金である.

 大企業・財界が消費税増税を強く押し進めようとするのは自分で消費税に関しては1円も納める必要がないだけでなく,輸出大企業には莫大な消費税還付金が入るからである.2010年の政府予算書によれば,消費税還付金の額は3兆円を超えている.消費税収入額の3割近い額が輸出企業に還付される仕組みになっている.2009年の還付金試算(税理士・湖東氏による)では,トヨタを含む上位10社の還付金総額は8000億円という.消費税が5%から15%になれば,これらの還付金額は3倍になる.国の財政がこんなに逼迫しているのに大企業に数兆円の消費税還付金がばらまかれるのである.膨大な還付金が入る輸出大企業にとっては,笑いが止まらない.国民が支払った血税を大企業に配分する構図が出来上がっている.

 これが消費税増税を強く押し進めようとする理由と思われる.消費税増税によって膨大な税金が大企業に流れる仕組みが出来ている.正規雇用を減らし,非正規雇用による経費削減などにより,240兆円を越える内部留保金を貯め込んでいる大企業は,法人税減税や消費税増税などによりその内部留保金を増やそうと企んでいる.そのお金を何かに使おうというアイデアもなく,安定雇用により社員の生活を安定させ,そのことにより日本国内の消費マインドを高めていこうというような気持ちもないように思われる.
何年か前のことであるが,ある北欧の会社が,部品の一部を日本の中小企業に発注することになった.そのときに,その北欧の会社が,まず第一に調べたのは,そこで働いている人たちの福利厚生を含めた待遇面であったという.安定して働ける社員がいて,はじめてその会社は信頼されるということだ.それが北欧ではスタンダードであるのだろう.一つ一つの大会社が経費節減により黒字になっても,消費の冷え込みにより国全体が不景気になっているのが,今の日本の経済状況と思える.いわゆる「合成の誤謬」である.日本財界の知力はその程度であるのかも知れない.日本財界の知力を越えて,北欧においてスタンダードな考え方を日本の中で定着していくことが大切であると,最近,強く思う.

(執筆 by EM, 2011/3/6)
(掲載:2011/5/27)