市民と科学者の対話(その3)
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日 時:2022年4月9日(土曜日)13:30−15:00
講 演:気候危機にいかに対処するか,一人一人に何ができるか
講演者:岡本良治氏(九州工業大学名誉教授・物理学)
主 催:日本科学者会議福岡支部
様 式:Zoomによるオンライン開催(当日の午前に発表)
参加費:なし
講演要旨:
気候危機に対しては緩和と適応の両方が必要である.本講演では,緩和についてのみ述べる.気候危機の原因と現象はかなり複雑で,それへの対処は多岐にわたる多くの要素を系統的に組み合わせる必要がある.より良い未来を選択するためには,市民の一人一人も当事者として立ち上がり,声を上げ,行動すべきである.その際,できるだけ信頼性のある方向を目指すことが重要である.気候危機への対処法を、市民と科学者の双方に同じ程度に納得していただくことは至難の業と思われるが,いろいろな分野の先行論考を踏まえた講演を試みる.主な内容は以下の通り.①政府・経産省のグリーン成長戦略の批判的分析、②2050年ころまでを展望した基本目標(グリーン・デジタル産業革命論)と背景となる考え方(持続可能性,公正性),③2030年までの移行戦略の支柱(エネルギー需要の削減,エネルギー効率改善,種々の分野における脱炭素化の加速,既成の技術を重点的に活用など),④原発を使うべきか,⑤ライフスタイルの変容の意義と限界など、一人一人に何ができるか.デジタル化の光と影,監視資本主義論,ドーナツ型経済論,成長なきコミュニズム論にも言及する.
講演の録音(約1時間50分) 発表資料
(録画には参加者の映像があるため公開しません)
<報告>
4月9日(土)の午後,第3回目の<市民と科学者の対話>を「気候危機にいかに対処するか,一人一人に何ができるか」という演題で岡本良治氏(九州工業大学名誉教授・物理学)にお話しいただいた.会議形式はZoomによるネット配信であったため,北海道や京都からの参加を含めて23名の参加があった.
講演のはじめに,岡本氏は,自分は気候関連分野やエネルギー問題,環境問題の専門家ではなく,原子核物理学を専門とする元大学教員にすぎないが,長い間,核・原子力問題について論考を公表したり講演をきた.そして2020年頃から気候変動問題について関連書類を学習し始め,自分でも分析をし始めた,と自己紹介された.その上で,気候危機への対応を政治家や官僚,専門家に任せてはいけない.「より良い未来を選択するためには,市民の一人一人が当事者として立ち上がり,声を上げ,行動しなければならない.(中略)そのために,本講演が少しでも参考になれば幸甚です」と挨拶された.
省エネや再エネを中心とした,現在進行中のエネルギー転換は社会システムや生活の有り様の大きな変化を伴うので,エネルギー革命と呼ぶのが適切であるという.再エネ100%社会を実現するという意味で再エネ革命あるいはグリーン・エネルギー革命と呼んでも良いのかもしれない.2050年までのグリーン・エネルギー革命の基本目標は,国家安全保障システムの軍事力依存性を低下させ,人間の安全保障を増大強化し,世代間倫理遵守・地球生態系全体の持続可能性・循環型社会システムに向かうという一大転換であるという.その中でデジタル技術は決定的に重要な役割を果たすので,グリーン・エネルギー革命をグリーン・デジタル革命あるいはグリーン・デジタル産業革命ともいわれる.
2030年は正念場の年となるが,2030年までのエネルギー移行戦略の基軸として以下の10点を上げられた.①脱ロシア・エネルギー依存,②エネルギー需要の低減とエネルギー効率の改善の2つからなる省エネルギー,③再エネ普及の障害克服と可及的加速などのエネルギー転換,④大規模CO2排出源の対策が不可欠,⑤既成の技術を主として活用・その他の技術開発,⑥エネルギーと電力の安定供給,⑦植物・土壌によるCO2の吸収源対策,⑧電力の再エネ化の増強を前提とする電化の促進,⑨エネルギーの地産地消の可及的な促進,⑩ライフスタイルの転換.
①については,現在,輸入している天然ガスや天然ガスプロジェクト「サハリン2」をどうするかについて,エネルギー安全保障と軍事的安全保障の両面から慎重に考える必要があろう.
②のエネルギー需要の低減については,動力を用いないパッシブシステムの設計変更することにより世界のエネルギー消費の4分の3が節約できるという.省エネという点では日本は世界に大きく立ち遅れているという指摘もあった.エネルギー効率の改善については,生産,輸送,供給,需要(利用,消費)の全ての局面で考える必要がある.
④については,大量にCO2を排出しているのはごく一部で,日本の総排出量の半分を出しているのは130事業所であり,これらを「脱炭素」していくことなしに2050年カーボン・ニュートラルを達成することはできないという.
⑩のライフスタイルの転換については,これが重要なのは日本では家計部門のCO2排出量の割合が消費ベースで6割を超えているからだという.住居に関してCO2排出を減らす効果的選択は,電気を再エネに転換し住居の断熱性を強化することなどである.移動に関しては,公共交通機関の利用やライドシェア,職住近接,テレワークが考えられ,また食事に関しては,菜食を多くし,赤身の肉を鶏肉や魚に転換したり,乳製品を大豆由来の食品に転換することでCO2の排出量を減らすことができるという.
政府の第6次エネルギー基本計画では2030年度の電源構成に20〜22%程度の原発が含まれているが,原発は,高レベル放射性廃棄物という未来世代への負の遺産という問題だけでなく,過酷事故のリスクが否定できず,広範な住民に被ばくによる健康障害や確率的な死をも強要するという点で,彼らの基本的人権と根本的に相容れないものであり,気候危機対策の柱にすべきではないと明言された.
岡本氏は,グレタ・トゥーンベリさんの「科学のもとに団結し,危機の悪化するのを防ぐために,あらゆる手を打とう」という言葉を紹介した後に,南米エクアドルの先住民族の次のような言い伝えを紹介されて講演を終わられた.
<ハチドリのひとしずくいま,私にできること>
森が燃えていました
森のいきものたちはわれ先にと逃げていきました
でもクリキンディという名のハチドリだけはいったりきたりくちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落として行きます
動物たちがそれを見て「そんなことしていったい何になるんだい」といって笑います
クリキンディはこう答えました
「私は,私にできることをしているだけ」
(報告:三好永作)
講 演:気候危機にいかに対処するか,一人一人に何ができるか
講演者:岡本良治氏(九州工業大学名誉教授・物理学)
主 催:日本科学者会議福岡支部
様 式:Zoomによるオンライン開催(当日の午前に発表)
参加費:なし
講演要旨:
気候危機に対しては緩和と適応の両方が必要である.本講演では,緩和についてのみ述べる.気候危機の原因と現象はかなり複雑で,それへの対処は多岐にわたる多くの要素を系統的に組み合わせる必要がある.より良い未来を選択するためには,市民の一人一人も当事者として立ち上がり,声を上げ,行動すべきである.その際,できるだけ信頼性のある方向を目指すことが重要である.気候危機への対処法を、市民と科学者の双方に同じ程度に納得していただくことは至難の業と思われるが,いろいろな分野の先行論考を踏まえた講演を試みる.主な内容は以下の通り.①政府・経産省のグリーン成長戦略の批判的分析、②2050年ころまでを展望した基本目標(グリーン・デジタル産業革命論)と背景となる考え方(持続可能性,公正性),③2030年までの移行戦略の支柱(エネルギー需要の削減,エネルギー効率改善,種々の分野における脱炭素化の加速,既成の技術を重点的に活用など),④原発を使うべきか,⑤ライフスタイルの変容の意義と限界など、一人一人に何ができるか.デジタル化の光と影,監視資本主義論,ドーナツ型経済論,成長なきコミュニズム論にも言及する.
講演の録音(約1時間50分) 発表資料
(録画には参加者の映像があるため公開しません)
<報告>
4月9日(土)の午後,第3回目の<市民と科学者の対話>を「気候危機にいかに対処するか,一人一人に何ができるか」という演題で岡本良治氏(九州工業大学名誉教授・物理学)にお話しいただいた.会議形式はZoomによるネット配信であったため,北海道や京都からの参加を含めて23名の参加があった.
講演のはじめに,岡本氏は,自分は気候関連分野やエネルギー問題,環境問題の専門家ではなく,原子核物理学を専門とする元大学教員にすぎないが,長い間,核・原子力問題について論考を公表したり講演をきた.そして2020年頃から気候変動問題について関連書類を学習し始め,自分でも分析をし始めた,と自己紹介された.その上で,気候危機への対応を政治家や官僚,専門家に任せてはいけない.「より良い未来を選択するためには,市民の一人一人が当事者として立ち上がり,声を上げ,行動しなければならない.(中略)そのために,本講演が少しでも参考になれば幸甚です」と挨拶された.
省エネや再エネを中心とした,現在進行中のエネルギー転換は社会システムや生活の有り様の大きな変化を伴うので,エネルギー革命と呼ぶのが適切であるという.再エネ100%社会を実現するという意味で再エネ革命あるいはグリーン・エネルギー革命と呼んでも良いのかもしれない.2050年までのグリーン・エネルギー革命の基本目標は,国家安全保障システムの軍事力依存性を低下させ,人間の安全保障を増大強化し,世代間倫理遵守・地球生態系全体の持続可能性・循環型社会システムに向かうという一大転換であるという.その中でデジタル技術は決定的に重要な役割を果たすので,グリーン・エネルギー革命をグリーン・デジタル革命あるいはグリーン・デジタル産業革命ともいわれる.
2030年は正念場の年となるが,2030年までのエネルギー移行戦略の基軸として以下の10点を上げられた.①脱ロシア・エネルギー依存,②エネルギー需要の低減とエネルギー効率の改善の2つからなる省エネルギー,③再エネ普及の障害克服と可及的加速などのエネルギー転換,④大規模CO2排出源の対策が不可欠,⑤既成の技術を主として活用・その他の技術開発,⑥エネルギーと電力の安定供給,⑦植物・土壌によるCO2の吸収源対策,⑧電力の再エネ化の増強を前提とする電化の促進,⑨エネルギーの地産地消の可及的な促進,⑩ライフスタイルの転換.
①については,現在,輸入している天然ガスや天然ガスプロジェクト「サハリン2」をどうするかについて,エネルギー安全保障と軍事的安全保障の両面から慎重に考える必要があろう.
②のエネルギー需要の低減については,動力を用いないパッシブシステムの設計変更することにより世界のエネルギー消費の4分の3が節約できるという.省エネという点では日本は世界に大きく立ち遅れているという指摘もあった.エネルギー効率の改善については,生産,輸送,供給,需要(利用,消費)の全ての局面で考える必要がある.
④については,大量にCO2を排出しているのはごく一部で,日本の総排出量の半分を出しているのは130事業所であり,これらを「脱炭素」していくことなしに2050年カーボン・ニュートラルを達成することはできないという.
⑩のライフスタイルの転換については,これが重要なのは日本では家計部門のCO2排出量の割合が消費ベースで6割を超えているからだという.住居に関してCO2排出を減らす効果的選択は,電気を再エネに転換し住居の断熱性を強化することなどである.移動に関しては,公共交通機関の利用やライドシェア,職住近接,テレワークが考えられ,また食事に関しては,菜食を多くし,赤身の肉を鶏肉や魚に転換したり,乳製品を大豆由来の食品に転換することでCO2の排出量を減らすことができるという.
政府の第6次エネルギー基本計画では2030年度の電源構成に20〜22%程度の原発が含まれているが,原発は,高レベル放射性廃棄物という未来世代への負の遺産という問題だけでなく,過酷事故のリスクが否定できず,広範な住民に被ばくによる健康障害や確率的な死をも強要するという点で,彼らの基本的人権と根本的に相容れないものであり,気候危機対策の柱にすべきではないと明言された.
岡本氏は,グレタ・トゥーンベリさんの「科学のもとに団結し,危機の悪化するのを防ぐために,あらゆる手を打とう」という言葉を紹介した後に,南米エクアドルの先住民族の次のような言い伝えを紹介されて講演を終わられた.
<ハチドリのひとしずくいま,私にできること>
森が燃えていました
森のいきものたちはわれ先にと逃げていきました
でもクリキンディという名のハチドリだけはいったりきたりくちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは火の上に落として行きます
動物たちがそれを見て「そんなことしていったい何になるんだい」といって笑います
クリキンディはこう答えました
「私は,私にできることをしているだけ」
(報告:三好永作)