橋下大阪市長の言動に拍手を送っているS君へ(1)

拝啓

 お元気で過ごしているでしょうか.S君,君が橋下大阪市長の言動に拍手を送っているということを伝え聞いて手紙を書いています.どうか最後まで読んで下さい.

 確かに,いまの日本の政治状況を見る私たちの心は閉塞感で一杯になっています.何よりも,この日本は20年以上も続く不況の中にあります.就職者の平均年収も1997年をピークに減り続けています.その不況の深刻化の中で閉塞感が蔓延しています.また,国民の多くはいまの政治や行政に不信感を募らせています.

 例えば,普天間米軍基地の移転問題で,最低でも県外へという沖縄県民の要求は,年ごとにくるくると替わる民主党政権によってないがしろにされ,県内移転が押しつけられようとしています.政府は,企業減税や富裕者優遇税制を保持する一方で低所得者には過酷で逆累進制の強い消費税値上げをやろうとしています.東日本大震災からの復旧・復興や福島原発事故の放射能汚染に対する除染処理や賠償問題に対する処理スピードについても,政府の対応が十分でなく遅々としています.

 このような状況の中で,「スピード感があり」,「キッパリした物言い」をし,「決定できる民主主義,責任を負う民主主義」といっている橋下氏を改革者と見て,現在の閉塞感を打開してくれるのではないかとS君が期待している気持ちは,ある意味よく分かります.S君は,大学卒業後就活に失敗して製造業の現場で派遣労働をして生活しているのでしたね.口下手な君の能力をよく知る私にとっては,会社の面接官の眼力のなさは驚きでしたが,それが君にとっては災難でした.日本の現状は確かにひどく,この経済不況から抜け出し明るい将来を展望できるように変わらなければなりません.そのなかでS君の能力を発揮できる正規雇用の仕事に就くことが出来れば良いと思っています.

 しかし,橋下氏がそのように明るい将来を見通せる方向で日本を変えてくれるでしょうか.橋下氏のめざす方向は全く逆の方向であると私は思います.橋下氏が率いる「維新の会」の「船中八策」を見てみましょう.「徹底した規制緩和」,「労働市場の流動化・自由化」,「混合診療解禁による市場原理メカニズムの導入」などの言葉が満載です.これらは,10年前に小泉首相が促進した,市場原理主義や規制緩和万能論を特徴とする新自由主義路線の「構造改革」と同一のものです.

 小泉内閣の「構造改革」では何が行われたのか思い出してみましょう.小泉氏は2001年4月に「自民党をぶっ壊す!」,「私の政策を批判する者はすべて抵抗勢力」と上手く敵を作りながら首相になりました.新自由主義の申し子(シカゴボーイズの一人)である竹中平蔵氏を経済財政担当大臣に起用して「構造改革なくして景気回復なし」をスローガンとして,「小さな政府」をめざす改革や目玉としての「郵政民営化」など次々に新自由主義路線の政策を進めました.その結果どうなったか.労働者派遣法が製造業への派遣労働を解禁するように改正されたのは2003年の6月の国会でした.この法律は2004年3月から施行され,派遣労働などの非正規雇用の製造業への拡がりなど雇用破壊がもたらされ,働く人の労働が「もの」として取り扱われる傾向が一段と強くなっていきました.大企業は,人件費を圧縮する手段として派遣労働を使っています.そのお陰で大企業の内部留保は2000年度の172兆円から2010年度には266兆円にも94兆円も膨らんでいます.一方で,民間企業労働者の年間平均賃金は,2000年の461万円から2010年には412万円へと約50万円も減少しています.つまり,大企業は富む一方で,国民は貧しくなっているのです.

 橋下氏はこのような新自由主義路線を突き進もうとしており,この方向が貧困に苦しむ多くの国民の期待を裏切ることになるのは明白でしょう.「船中八策」の経済政策は,多くの国民の怒りを買って自民党の政権転落の要因を作り出した小泉「構造改革」路線の焼き直しでしかありません.いま日本に必要な経済政策は働く人が「もの」として扱われるではなく,働く人の人格が認められるような労働の形態を作り出すことではないでしょうか.余裕のある生活ができて,一定の年齢になり,相手が見つかれば,結婚をして子供ができひとつの家族として生活する.これが当たり前の人生ではないでしょうか.しかし,橋下氏の新自由主義路線では貧困と格差を拡大するだけで,そのような当たり前の生活を営むことができない人をたくさん生み出すことになります.

 橋下氏は,平素から小泉路線の「民営化」や「構造改革」に理解を示す言動を取っています.それだけでなく,敵を上手く作りながら世間の支持を取り付けていくという手法やマスコミへの対応も小泉路線から学んでいるようです.一度,破綻した小泉「構造改革」路線を「再稼働」使用としている橋下氏に,それでも,期待しますか? 敵を作りだし,ウソを繰り返し,大衆を上手く動員して権力に上り詰めたのはドイツのヒットラーです.橋下氏の言動には,ヒットラーと類似のものを見てしまうのは私だけでしょうか.

 今日のところはこのへんで終わります.次回には,日本が置かれている状況を掘り下げる私なりの考察についてお手紙を書く予定です.継続して読んでいただければ幸いです.

敬具


E.M.(2012/03/16)