橋下大阪市長の言動に拍手を送っているS君へ(2)
(null)/(null)/(null) (null)
拝啓
前回の手紙では,小泉「構造改革」は新自由主義路線の政策を進めたものであり,派遣労働などの非正規雇用の製造業への拡がりなど雇用破壊をもたらし,働 く人の労働が「もの」として取り扱われる傾向を一段と強くしてきたこと,そして,橋下大阪市長はその路線を一段と進めようとしているということを書きまし た. 今回は,いま不況の深刻化の中で閉塞感が蔓延している日本の根本問題は何かということについて,私の考えていることを書きましょう.私の考える日本の根 本問題は,一口で言えば「1%」と「99%」の矛盾です.「1%」とは,もちろん,財界をはじめとした現在の日本の支配層であり,「99%」はそれ以外の ほとんどすべての一般国民大衆です.こうひとくちで言うと単純な構図のように見えますが,この構図はいまの日本の国民には明確な形で現れていません.
その理由は,「1%」の日本の支配層は圧倒的な力を持っており,上の構図が明確にならないようにさまざまな工夫を凝らしているからです. 「1%」の構成を見てみましょう.経済界では,日本経済団体連合会(経団連)や経済同友会などです.政界では,2,3年前まで政権を担っていた自民党や公 明党,それを引き継いだ民主党も「1%」の構成メンバーとみて間違いないでしょう.一部の弱小の左翼政党以外はほとんどの野党(これらは元の自民党から分 裂したものです)も「1%」に入っています.それに国の行政を担当している官僚機構もそうでしょう.それに悲しいことに,かなりの程度の学者もこの中に 入っています.この1年の原発事故の報道の中で「原子力ムラ」の「御用学者」がそのことを明確に示してくれました.
「御用学者」についての別の例を紹介します.一般には注目されていませんが,昨年(2011年)1月,「薬害イレッサ訴訟」の裁判において裁 判官は,国と製薬会社の責任を認めたうえで和解勧告を出しました.これに対する日本肺癌学会や日本臨床腫瘍学会,日本医学会会長などは和解に反対する声明 を出しました.これらの声明は,厚労省の役人が下書きしたもので,その働きかけで作られたことがあとで判明しました.また,それらの声明があったあと国と 製薬会社は和解勧告を拒否しました.この事件は,「1%」に飲み込まれた「御用学者」が「原子力ムラ」のみではないということを端的に示しています.
「1%」の構成メンバーで重要な役割をしているもう一つが,大手マスメディアです.私がそう判断する根拠の重要な部分は,「消費税値上げ」に 値する大手マスメディアの態度です.大手マスメディアは,国の財政が赤字で「消費税値上げ」は避けられないと言うような報道しかしません.その結果, 「99%」の一般国民大衆の多くは「消費税値上げ」を仕方のないことと受け止めるようになってきています.消費税は逆累進制が強く,所得の低い人びとに とっては過酷な税制です.一方,大企業・財界にとっては,自らは消費税を1円も納める必要がないだけでなく,輸出大企業には莫大な消費税還付金が入ること になっています.
2010年の政府予算書によれば,消費税還付金の額は3兆円を超えています.消費税収入額のかなりの額が輸出大企業に還付される仕組みになっ ているのです.消費税を10%にすれば,この還付金は6兆円にもなります.そのようなことを知らないはずもない大手マスメディアが消費税還付金の仕組みを 報道することもなく,一斉に「消費税値上げ」は必要と報道していることは,自ら「1%」の側に立っていることを証明しているようなものです.
税金は,負担能力に応じて徴収するというのが基本であるべきです.これを「応能負担の原則」といいます.いま日本における,年収100億円以 上の富裕層の税・社会保険料負担(18.9%)は,年収100万円の貧困層の負担(20.2%)より軽いということをご存じでしょうか.そのようなことが 起こる最大の理由は,証券優遇税制で10%に据え置かれていることです.これは株の配当やその譲渡所得に対する課税ですが,預金の利子に対する20%課税 に比べて安すぎます.欧米では30%程度の課税が一般的です.もう一つの理由は,1985年には88%であった所得税・住民税の最高税率がいまは50%と 「1%」の側には優しい税制になっているからです.富裕層には十分な負担能力があります.富裕税といったやり方もあります.欧米では自分たちからもっと税 金を取れという富裕層からの発言があると伝えられていますが,日本では残念ながらこのような発言はありません.10億ドル(約820億円)以上の大富豪 は,日本には24人おり,その総資産は約6兆円です.もし,この24人の大富豪に例えば5%の富裕税をかければ,3000億円になります.国家公務員の賃 下げ7.8%が国会で先日採決されましたが,その賃下げ分2900億円を上回ります.国家公務員の賃下げは他に波及し,デフレをますます加速することにな るでしょう.しかし,富裕税の導入は,そのような負の連鎖を生むことはないと考えられます.このような「応能負担の原則」を貫く税制が日本に必要です.
それでは「99%」の側はどうなっているのでしょう.「99%」の側の人びとはバラバラにされています.公務員を橋下氏や「維新の会」が攻撃 すると,生まれた境遇や学歴もあまり変わらないのにたまたま安定した地位にいてけしからんという気持ちで,その公務員攻撃に拍手を送っている人が多いので はないでしょうか.S君も同じような気持ちで橋下氏の言動に拍手を送っているのではないですか.しかし,非正規雇用者も正規雇用者も同じ「99%」である ということを自覚することが必要ではないでしょうか.支配者は被支配者の中に対立を持ち込むのが常套手段です.「99%」の人びとはそのような手に乗って はなりません.先ほどの国家公務員の賃下げにも派遣労働者のS君は拍手を送ったのではないですか.しかし,この賃下げは民間にも波及しますし,日本全体の 賃金低下を引き起こすことが十分考えられます.「99%」は,手を取り合って連帯しなければなりません.「99%」の上の方を引き下ろすのではなく,下の 方を引き上げなければなりません.そのために連帯することが必要です.
「99%」の側にいる多くの人びとは,「法人税40%は高すぎる」,「これでは企業は海外へ逃げ出す」,「法人税を下げるべき」というような 大手マスメディアの報道しか与えられず,三菱商事やソニーなどの大企業の法人税負担率がさまざまな優遇税制により12〜13%であることさえ知らさされて いません.また,会社が海外に逃げないためには「法人税減税」が必要と思い込まされています.企業が海外へ進出する際の最大の理由は,その国(周辺国を含 め)にどれ程の需要があるかです.税金が安いかどうかということは,それに比較すれば大した理由ではありません.このことをそのまま日本に適用すれば,日 本における内外の企業活動を活発にするためには日本人の消費マインドを高めるかということが大切ということです.日本国内の経済の6割は家計消費です.そ の消費マインドを高めるためには,大企業がため込んでいる260兆円の内部留保を有効に使い,下請けや納入業者の単価を適正化したり,正規労働を増やした りすることで,国民所得を増やし,家計を温めることが必要です.製造業への派遣労働の禁止などで,正規雇用による安定した仕事を保障し,所得を増やすよう な雇用政策への転換が必要になります.
「消費税値上げ」をやめ,大企業や富裕層に適正に課税して,「応能負担の原則」を貫くことが「99%」の幸せのために必要です.しかし,橋下 氏の「維新の会」が「船中八策」の中で掲げている「超簡素な税制=フラットタックス」は,これとは正反対の税制です.フラットタックスとは,累進制を否定 して,低所得者も富裕者も定率の所得税や消費税を取るということです.「99%」にとっては最悪の税制であり,「1%」にとっては最善の税制ということで す.「維新の会」の掲げる税制で「99%」が幸せになることは決して出来ません.橋下氏の「維新の会」がめざしているのは,「1%」のための政治であり, そして,ここが肝心なところですが,「99%」がますます不幸になる政治なのです.
以上に述べた「99%」が幸せになる税制や雇用政策は,「1%」にとっても決して不幸なものではないということを指摘しておきたいと思いま す.それらの政策は,「1%」がほどほどに儲けながら,社会的責任という極めて崇高な任務をまっとうする機会を提供することになるからです.
ここまで読んでくれて有り難う御座います.今日のところはこの辺で終わります.次回には,教育問題と橋下氏の民主主義に対する敵対的姿勢を取り上げて見たいと思います.継続して読んで下さい.
前回の手紙では,小泉「構造改革」は新自由主義路線の政策を進めたものであり,派遣労働などの非正規雇用の製造業への拡がりなど雇用破壊をもたらし,働 く人の労働が「もの」として取り扱われる傾向を一段と強くしてきたこと,そして,橋下大阪市長はその路線を一段と進めようとしているということを書きまし た. 今回は,いま不況の深刻化の中で閉塞感が蔓延している日本の根本問題は何かということについて,私の考えていることを書きましょう.私の考える日本の根 本問題は,一口で言えば「1%」と「99%」の矛盾です.「1%」とは,もちろん,財界をはじめとした現在の日本の支配層であり,「99%」はそれ以外の ほとんどすべての一般国民大衆です.こうひとくちで言うと単純な構図のように見えますが,この構図はいまの日本の国民には明確な形で現れていません.
その理由は,「1%」の日本の支配層は圧倒的な力を持っており,上の構図が明確にならないようにさまざまな工夫を凝らしているからです. 「1%」の構成を見てみましょう.経済界では,日本経済団体連合会(経団連)や経済同友会などです.政界では,2,3年前まで政権を担っていた自民党や公 明党,それを引き継いだ民主党も「1%」の構成メンバーとみて間違いないでしょう.一部の弱小の左翼政党以外はほとんどの野党(これらは元の自民党から分 裂したものです)も「1%」に入っています.それに国の行政を担当している官僚機構もそうでしょう.それに悲しいことに,かなりの程度の学者もこの中に 入っています.この1年の原発事故の報道の中で「原子力ムラ」の「御用学者」がそのことを明確に示してくれました.
「御用学者」についての別の例を紹介します.一般には注目されていませんが,昨年(2011年)1月,「薬害イレッサ訴訟」の裁判において裁 判官は,国と製薬会社の責任を認めたうえで和解勧告を出しました.これに対する日本肺癌学会や日本臨床腫瘍学会,日本医学会会長などは和解に反対する声明 を出しました.これらの声明は,厚労省の役人が下書きしたもので,その働きかけで作られたことがあとで判明しました.また,それらの声明があったあと国と 製薬会社は和解勧告を拒否しました.この事件は,「1%」に飲み込まれた「御用学者」が「原子力ムラ」のみではないということを端的に示しています.
「1%」の構成メンバーで重要な役割をしているもう一つが,大手マスメディアです.私がそう判断する根拠の重要な部分は,「消費税値上げ」に 値する大手マスメディアの態度です.大手マスメディアは,国の財政が赤字で「消費税値上げ」は避けられないと言うような報道しかしません.その結果, 「99%」の一般国民大衆の多くは「消費税値上げ」を仕方のないことと受け止めるようになってきています.消費税は逆累進制が強く,所得の低い人びとに とっては過酷な税制です.一方,大企業・財界にとっては,自らは消費税を1円も納める必要がないだけでなく,輸出大企業には莫大な消費税還付金が入ること になっています.
2010年の政府予算書によれば,消費税還付金の額は3兆円を超えています.消費税収入額のかなりの額が輸出大企業に還付される仕組みになっ ているのです.消費税を10%にすれば,この還付金は6兆円にもなります.そのようなことを知らないはずもない大手マスメディアが消費税還付金の仕組みを 報道することもなく,一斉に「消費税値上げ」は必要と報道していることは,自ら「1%」の側に立っていることを証明しているようなものです.
税金は,負担能力に応じて徴収するというのが基本であるべきです.これを「応能負担の原則」といいます.いま日本における,年収100億円以 上の富裕層の税・社会保険料負担(18.9%)は,年収100万円の貧困層の負担(20.2%)より軽いということをご存じでしょうか.そのようなことが 起こる最大の理由は,証券優遇税制で10%に据え置かれていることです.これは株の配当やその譲渡所得に対する課税ですが,預金の利子に対する20%課税 に比べて安すぎます.欧米では30%程度の課税が一般的です.もう一つの理由は,1985年には88%であった所得税・住民税の最高税率がいまは50%と 「1%」の側には優しい税制になっているからです.富裕層には十分な負担能力があります.富裕税といったやり方もあります.欧米では自分たちからもっと税 金を取れという富裕層からの発言があると伝えられていますが,日本では残念ながらこのような発言はありません.10億ドル(約820億円)以上の大富豪 は,日本には24人おり,その総資産は約6兆円です.もし,この24人の大富豪に例えば5%の富裕税をかければ,3000億円になります.国家公務員の賃 下げ7.8%が国会で先日採決されましたが,その賃下げ分2900億円を上回ります.国家公務員の賃下げは他に波及し,デフレをますます加速することにな るでしょう.しかし,富裕税の導入は,そのような負の連鎖を生むことはないと考えられます.このような「応能負担の原則」を貫く税制が日本に必要です.
それでは「99%」の側はどうなっているのでしょう.「99%」の側の人びとはバラバラにされています.公務員を橋下氏や「維新の会」が攻撃 すると,生まれた境遇や学歴もあまり変わらないのにたまたま安定した地位にいてけしからんという気持ちで,その公務員攻撃に拍手を送っている人が多いので はないでしょうか.S君も同じような気持ちで橋下氏の言動に拍手を送っているのではないですか.しかし,非正規雇用者も正規雇用者も同じ「99%」である ということを自覚することが必要ではないでしょうか.支配者は被支配者の中に対立を持ち込むのが常套手段です.「99%」の人びとはそのような手に乗って はなりません.先ほどの国家公務員の賃下げにも派遣労働者のS君は拍手を送ったのではないですか.しかし,この賃下げは民間にも波及しますし,日本全体の 賃金低下を引き起こすことが十分考えられます.「99%」は,手を取り合って連帯しなければなりません.「99%」の上の方を引き下ろすのではなく,下の 方を引き上げなければなりません.そのために連帯することが必要です.
「99%」の側にいる多くの人びとは,「法人税40%は高すぎる」,「これでは企業は海外へ逃げ出す」,「法人税を下げるべき」というような 大手マスメディアの報道しか与えられず,三菱商事やソニーなどの大企業の法人税負担率がさまざまな優遇税制により12〜13%であることさえ知らさされて いません.また,会社が海外に逃げないためには「法人税減税」が必要と思い込まされています.企業が海外へ進出する際の最大の理由は,その国(周辺国を含 め)にどれ程の需要があるかです.税金が安いかどうかということは,それに比較すれば大した理由ではありません.このことをそのまま日本に適用すれば,日 本における内外の企業活動を活発にするためには日本人の消費マインドを高めるかということが大切ということです.日本国内の経済の6割は家計消費です.そ の消費マインドを高めるためには,大企業がため込んでいる260兆円の内部留保を有効に使い,下請けや納入業者の単価を適正化したり,正規労働を増やした りすることで,国民所得を増やし,家計を温めることが必要です.製造業への派遣労働の禁止などで,正規雇用による安定した仕事を保障し,所得を増やすよう な雇用政策への転換が必要になります.
「消費税値上げ」をやめ,大企業や富裕層に適正に課税して,「応能負担の原則」を貫くことが「99%」の幸せのために必要です.しかし,橋下 氏の「維新の会」が「船中八策」の中で掲げている「超簡素な税制=フラットタックス」は,これとは正反対の税制です.フラットタックスとは,累進制を否定 して,低所得者も富裕者も定率の所得税や消費税を取るということです.「99%」にとっては最悪の税制であり,「1%」にとっては最善の税制ということで す.「維新の会」の掲げる税制で「99%」が幸せになることは決して出来ません.橋下氏の「維新の会」がめざしているのは,「1%」のための政治であり, そして,ここが肝心なところですが,「99%」がますます不幸になる政治なのです.
以上に述べた「99%」が幸せになる税制や雇用政策は,「1%」にとっても決して不幸なものではないということを指摘しておきたいと思いま す.それらの政策は,「1%」がほどほどに儲けながら,社会的責任という極めて崇高な任務をまっとうする機会を提供することになるからです.
ここまで読んでくれて有り難う御座います.今日のところはこの辺で終わります.次回には,教育問題と橋下氏の民主主義に対する敵対的姿勢を取り上げて見たいと思います.継続して読んで下さい.
敬具
E.M. (2012/03/27)