基調講演 (9月12日(金)14:30~16:15, II-407)

「福島と水俣、玄海を結ぶもの」

 馬奈木昭雄(久留米第一法律事務所・弁護士)

福島原発事故において「安全神話」と「想定外」という言葉が飛びかったが、これらは実は従来の公害、労災訴訟においても、当然のように存在していたことである。国・加害企業は例外なく、重大な被害が発生すると、徹底して発生原因の究明を妨害し、判明した事実を隠ぺいした。同時に発生した被害の実態解明を妨害し、被害を隠しこんだ。そのため被害発生はやむことなく拡大し続け、さらに水俣病のように、他企業による第2の水俣病が発生することになった。

国が加害企業と一体となって、発生原因とその責任を隠し、被害を押さえこむ理由は、加害企業一社を擁護しているのではなく、国の産業政策そのもの、利権構造全体を擁護しているのである。

福島原発事故も水俣病において行なわなかったことがそのまま繰り返されている。今、再稼働をゆるせば、第2の福島事故が発生する危険性は極めて高いと考えられる。玄海原発差し止め訴訟は国民の力を結集することによって、利権構造(原発村構造)を打ち破ることをめざすものである。

特別講演I (9月12日(金)16:30~18:00, II-407)

「脱原発社会の創造」

 吉岡斉(九州大学大学院比較社会文化研究院・教授)

脱原発社会(原発ゼロ社会)とは、原子力発電を廃止するとともに、原子力発電に伴う負の遺産を賢明に管理する社会のことを指す。その実現に関わる諸問題を解決していくためには幾つもの創造的アイデアが必要である。原発廃止という課題は、その社会全体の政治的・文化的な改革を伴う課題であり、それが成就されればおのずと大きな効果が他分野にも及ぶであろう。個別問題でのイノベーションを突破口として世の中は変わっていく。原発廃止のために必要な政策体系を、公共利益の観点からみて適切な形で整備・実施していくという作業に取り組む者には、「社会運動論」と「公共政策論」の2つを身につけることが必要である。この報告では、脱原発社会を構築する方法について次の2つの論点に絞って議論してみたい。
(1)原子力市民委員会という組織モデル
(2)原状復帰政策の無力化と脱原発への仕切り直し

特別講演II (9月13日(土)13:30~15:00, II-407)

「核兵器と放射線被曝で脅かされない世界への転機」

 沢田昭二(名古屋大学・名誉教授)

人類は20世紀の前半に武力行使原則禁止の国連憲章や日本国憲法第9条に到達したが、広島・長崎への原爆投下によって核脅迫の時代を始め、今日なお武力を用いた紛争を続けている。

世界世論は、核兵器独占の不平等条約である核不拡散条約の再検討会議を核兵器のない世界をつくる道具に変え、来年の2015年再検討会議において核兵器禁止条約交渉開始の扉を開くかどうか大きな転機を迎えている。核抑止論から脱却して議論を核兵器の非人道性に絞る上で日本の役割は大きい。

放射線影響の国際および国内の研究体制は、核兵器政策と原発推進政策によって大きく歪められている。その根底には広島・長崎の被爆者に対する研究を行ってきた放射線影響研究所の内部被曝を無視した研究がある。これを正していくことも日本の科学者の重要な人類的課題である。

核兵器のない放射線被曝でも脅かされない世界を実現することと国連憲章と憲法第9条の理念は軌を一にしている。


サインセールのお知らせ

20総学の開会前の12日午後1時〜2時の間馬奈木昭雄先生と吉岡斉先生の下記の本についてのサインセールを受付において行います.

馬奈木昭雄先生
「弁護士馬奈木昭雄」(合同出版)
「たたかい続けるということ」(西日本新聞社)
「勝つまでたたかう ─馬奈木イズムの形成と発展─」(花伝社)
吉岡斉先生
「脱原子力国家への道」(岩波書店)
「新版 原子力の社会史」(朝日選書)
「原発と日本の未来」(岩波ブックレット)

$Date: 2014/11/08 06:36:04 $ 第20回総合学術研究集会事務局