気候危機についてのオンライン講演会
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市民と科学者の対話1
<気候危機についてのオンライン講演会の案内>
講演会:「地球の非常事態としての気候危機の現段階―国連IPCC第6次報告―」
日 時:2021年9月19日(日)14:00~16:00
講演者:伊藤久徳氏(九州大学名誉教授・気象学)
主 催:日本科学者会議福岡支部
内 容:国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第6次報告書を提出し,
地球温暖化の要因について人間の影響を疑う余地がないと断定しました.
温暖化は思った以上に進行しており,今後20年以内に地球の温度は産業
革命前に比べて1.5℃上昇し,熱波や洪水,干ばつが多発する可能性を
指摘しています.今回の講演会では,気象学者の伊藤久徳先生にIPCC
第6次報告の深刻な内容を解説いただくとともに,私たちは地球人として
この非常事態に何をなすべきかについて講演いただきます.
様 式:Zoomによるオンラインで行います.
申 込:参加費は無料ですが,参加希望者はkanji@jsa-fukuoka.sakura.ne.jpまで
「参加希望」とのメールを送ってください.後ほどZoom情報をお知らせします.
・当日講演の動画(約80分)
・講演のパワーポイント・ファイル(12.4MB)*一部修正 (2021.9.24)
<報告>
9月19日(日)にJSA福岡支部主催の「気候危機についてのオンライン講演会」がZoomによって開催された.講演者は,伊藤久徳氏(九州大学名誉教授・気象学),題目は「地球の非常事態としての気候危機の現段階—国連IPCC第6次評価報告—」であった.以下に講演の概略を報告する.
伊藤氏は,最初に,気温の上昇だけでなく,降水の変化,雪氷面積の減少,海水面の上昇など地球規模での気候変化が現在起こっていると具体的事実を提示して指摘され,まさに私たちは今,気候危機(climate crisis)の中にいると述べられた.次にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の紹介をされ,第1次(1990)から第5次(2013,14)の評価報告書までの経緯を説明の後,今回の第6次評価報告書(AR6)について報告された.IPCCは,3つの作業部会(WG)からなり,第1作業部会(WG I)では,自然科学的根拠の評価を行っている.AR6のWG I報告書は3959ページに及ぶ膨大なもので,66ヵ国,230人以上の執筆者・査読者,約14000本の論文を参考文献に挙げて,78000本の査読コメントすべてに回答して作成されたものである.報告書は,政策決定者向け要約(SPM),技術的要約(TS),本体・付録という構成からなり,発表された研究を広く取り上げ,評価を行い,科学的知見を集約し,政策立案者等へ助言を行うことを目的とするのが特徴である.
伊藤氏は,まず気候変動に関する基礎知識を説明した後に,IPCC AR6の内容を解説された.AR6のWG I報告書の本体は12章からなり,全球スケールの変化,プロセス理解,地域スケールの変化という3つの部分に大きく分けられる.特に,前回(AR5)の報告書からの発展した部分について説明された.AR6の特徴として,観測データ,古気候データ,数値モデルのシミュレーションデータおよび理論などの複数の結果に基づいて証拠立てられている(Multiple Lines of Evidence)ことが確認された.また予測においても複数のシミュレーションを実行し,その平均とバラツキから不確定さを考慮した確率的な予測(アンサンブル技法)がされ,可能性を評価した予測になっている.その解析結果について政策決定者向け要約(SPM)を中心に説明された.その内容は,A.気候の現状,B.将来のありうる気候,C.リスク評価と地域適応のための気候情報,D.将来の気候変動の抑制の4つからなる.この中の多くの項目について説明されたが,紙面都合上3項目のみを紹介する.A.1人間の影響が大気,海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない.大気,海洋,雪氷圏及び生物圏において,広範囲かつ急速な変化が現れている.B.5過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化,特に海洋,氷床及び世界海面水位における変化は,百年から千年の時間スケールで不可逆的である.D.1自然科学的見地から,人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには,CO2の累積排出量を制限し,少なくともCO2正味ゼロ排出を達成し,他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある.
伊藤氏は,報告書のコメントとして,気候科学は成熟し,精緻になった,さらに,私たちにとって,このIPCC AR6は,政治や社会,企業に対する「武器」となる行動の指針であると力説された.講演の最後に,「地球の非常事態」という捉え方を披露された.地球温暖化の一番の問題は気温が高くなること自体ではなく,気温の上昇が急すぎることにある.この急激な変化により,人類は経験が生きない時代に入ったといえる.地球の時間スケールに比較して変化の時間スケールがあまりにも短くてミスマッチが起こり,「地球の非常事態」となった.気候危機は,人類始まって以来,初めて科学的に未来から現在を捉えようとする問題である.地球の一員として,地球のあり方に沿うように社会を転換しなければならないと提起されて講演を締めくくられた.
講演後の質疑,討論では,カーボンニュートラルのために,再生可能エネルギーの開発が行われ,その結果風力発電,太陽光発電の設置により森林伐採などの環境破壊が進行している現状をどう考えるのかという問題が提起された.また,カーボンニュートラルだけではなく,人類のエネルギー消費を削減することの重要性のコメントおよび,温暖化問題やエネルギー政策は,直面した政治的な課題であるという指摘など,多くの意見・質問が出された.
支部主催の講演会は,通常は県内JSA会員に呼びかけ,福岡市内の会場で開催していたが,緊急事態宣言中での開催であったため,新型コロナ感染防止上Zoomによるオンライン講演会とした.オンラインならばと,県内に参加を限らずに全国事務局,九州沖縄の各支部へ案内を出したところ,遠方では北海道等の県外からの参加も多くあり,主催者の不手際で10数名が当日参加できなかったにもかかわらず,通常の講演会より盛況で39名の方に参加していただいた.
(報告者:出口博之)
<気候危機についてのオンライン講演会の案内>
講演会:「地球の非常事態としての気候危機の現段階―国連IPCC第6次報告―」
日 時:2021年9月19日(日)14:00~16:00
講演者:伊藤久徳氏(九州大学名誉教授・気象学)
主 催:日本科学者会議福岡支部
内 容:国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第6次報告書を提出し,
地球温暖化の要因について人間の影響を疑う余地がないと断定しました.
温暖化は思った以上に進行しており,今後20年以内に地球の温度は産業
革命前に比べて1.5℃上昇し,熱波や洪水,干ばつが多発する可能性を
指摘しています.今回の講演会では,気象学者の伊藤久徳先生にIPCC
第6次報告の深刻な内容を解説いただくとともに,私たちは地球人として
この非常事態に何をなすべきかについて講演いただきます.
様 式:Zoomによるオンラインで行います.
申 込:参加費は無料ですが,参加希望者はkanji@jsa-fukuoka.sakura.ne.jpまで
「参加希望」とのメールを送ってください.後ほどZoom情報をお知らせします.
・当日講演の動画(約80分)
・講演のパワーポイント・ファイル(12.4MB)*一部修正 (2021.9.24)
<報告>
9月19日(日)にJSA福岡支部主催の「気候危機についてのオンライン講演会」がZoomによって開催された.講演者は,伊藤久徳氏(九州大学名誉教授・気象学),題目は「地球の非常事態としての気候危機の現段階—国連IPCC第6次評価報告—」であった.以下に講演の概略を報告する.
伊藤氏は,最初に,気温の上昇だけでなく,降水の変化,雪氷面積の減少,海水面の上昇など地球規模での気候変化が現在起こっていると具体的事実を提示して指摘され,まさに私たちは今,気候危機(climate crisis)の中にいると述べられた.次にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の紹介をされ,第1次(1990)から第5次(2013,14)の評価報告書までの経緯を説明の後,今回の第6次評価報告書(AR6)について報告された.IPCCは,3つの作業部会(WG)からなり,第1作業部会(WG I)では,自然科学的根拠の評価を行っている.AR6のWG I報告書は3959ページに及ぶ膨大なもので,66ヵ国,230人以上の執筆者・査読者,約14000本の論文を参考文献に挙げて,78000本の査読コメントすべてに回答して作成されたものである.報告書は,政策決定者向け要約(SPM),技術的要約(TS),本体・付録という構成からなり,発表された研究を広く取り上げ,評価を行い,科学的知見を集約し,政策立案者等へ助言を行うことを目的とするのが特徴である.
伊藤氏は,まず気候変動に関する基礎知識を説明した後に,IPCC AR6の内容を解説された.AR6のWG I報告書の本体は12章からなり,全球スケールの変化,プロセス理解,地域スケールの変化という3つの部分に大きく分けられる.特に,前回(AR5)の報告書からの発展した部分について説明された.AR6の特徴として,観測データ,古気候データ,数値モデルのシミュレーションデータおよび理論などの複数の結果に基づいて証拠立てられている(Multiple Lines of Evidence)ことが確認された.また予測においても複数のシミュレーションを実行し,その平均とバラツキから不確定さを考慮した確率的な予測(アンサンブル技法)がされ,可能性を評価した予測になっている.その解析結果について政策決定者向け要約(SPM)を中心に説明された.その内容は,A.気候の現状,B.将来のありうる気候,C.リスク評価と地域適応のための気候情報,D.将来の気候変動の抑制の4つからなる.この中の多くの項目について説明されたが,紙面都合上3項目のみを紹介する.A.1人間の影響が大気,海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない.大気,海洋,雪氷圏及び生物圏において,広範囲かつ急速な変化が現れている.B.5過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化,特に海洋,氷床及び世界海面水位における変化は,百年から千年の時間スケールで不可逆的である.D.1自然科学的見地から,人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには,CO2の累積排出量を制限し,少なくともCO2正味ゼロ排出を達成し,他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある.
伊藤氏は,報告書のコメントとして,気候科学は成熟し,精緻になった,さらに,私たちにとって,このIPCC AR6は,政治や社会,企業に対する「武器」となる行動の指針であると力説された.講演の最後に,「地球の非常事態」という捉え方を披露された.地球温暖化の一番の問題は気温が高くなること自体ではなく,気温の上昇が急すぎることにある.この急激な変化により,人類は経験が生きない時代に入ったといえる.地球の時間スケールに比較して変化の時間スケールがあまりにも短くてミスマッチが起こり,「地球の非常事態」となった.気候危機は,人類始まって以来,初めて科学的に未来から現在を捉えようとする問題である.地球の一員として,地球のあり方に沿うように社会を転換しなければならないと提起されて講演を締めくくられた.
講演後の質疑,討論では,カーボンニュートラルのために,再生可能エネルギーの開発が行われ,その結果風力発電,太陽光発電の設置により森林伐採などの環境破壊が進行している現状をどう考えるのかという問題が提起された.また,カーボンニュートラルだけではなく,人類のエネルギー消費を削減することの重要性のコメントおよび,温暖化問題やエネルギー政策は,直面した政治的な課題であるという指摘など,多くの意見・質問が出された.
支部主催の講演会は,通常は県内JSA会員に呼びかけ,福岡市内の会場で開催していたが,緊急事態宣言中での開催であったため,新型コロナ感染防止上Zoomによるオンライン講演会とした.オンラインならばと,県内に参加を限らずに全国事務局,九州沖縄の各支部へ案内を出したところ,遠方では北海道等の県外からの参加も多くあり,主催者の不手際で10数名が当日参加できなかったにもかかわらず,通常の講演会より盛況で39名の方に参加していただいた.
(報告者:出口博之)