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日本学術会議への人事介入に対する声明文

声明文「日本学術会議の新規会員に対する理由不明な任命拒否は学問の自由を侵す」


声明文(pdfファイル)

2020年10月6日
日本科学者会議福岡支部


 菅首相は日本学術会議の新規会員候補105名のうち6名の任命を拒否しました.これは憲法23条の「学問の自由」を侵害するだけでなく,日本学術会議法に違反しこれまでの国会答弁に反する明確な違法行為です.任命拒否の理由も決定過程も明らかにされていません.政府による日本学術会議への人事介入である由々しい重大事態と言わなければなりません.6名の任命拒否は,この6名に止まる問題ではなく,日本の科学者の代表である日本学術会議全体の問題であり,さらに会員を出している学会の問題であり日本国民全体の問題です.

 日本学術会議法の第2章「職務及び権限」第3条に日本学術会議の職務は,①「科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること」,②「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」を独立して行うとされています.さらに同第5条には,①「科学の振興及び技術の発展に関する方策」,②「科学に関する研究成果の活用に関する方策」,③「科学研究者の養成に関する方策」について政府に勧告することができるとあります.

 第3条の「独立して」職務を行うとは,日本学術会議は総理大臣からも独立しており,その指揮監督を受けないという意味です.また,政府に対して「勧告」するのですから政府の政策から独立した立場であることが前提です.それは,会の推薦する会員をそのまま任命するということでもあります(第7条2項「推薦に基づいて総理大臣が任命」).もし総理大臣に,推薦された会員候補の任命拒否が可能ならば,日本学術会議会員の構成が総理大臣の意向に左右されることになります.加藤官房長官は「学術会議は法律上首相の所轄であり,人事を通じて一定の監督権を行使することは法律上可能」と述べていますが,これは「所轄」の意味を恣意的に解釈したもので,そもそも日本学術会議は政府から独立した組織ですから,人事を通じた総理大臣による監督権など存在しません.1983年,当時の中曽根首相は国会で「政府が行うのは形式的任命にすぎない.学問の自由独立は保障される」と答弁しています.現行の日本学術会議法は,このような国会答弁のもとに国会で可決されたものです.

 日本学術会議は10月2日に,菅総理大臣に「第25期新規会員任命に関する要望書」を提出しました.その内容は第25期新規会員任命に関して,①「2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり,推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい」,②「2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち,任命されていない方について,速やかに任命していただきたい」の2点です.福岡県の科学者をメンバーとする私たち日本科学者会議福岡支部は,この日本学術会議の要望書を支持します.日本学術会議には,今回の菅首相による特定の新規会員の恣意的な任命拒否を撤回させるまで,政府に働きかけることを望んでいます.

 日本学術会議は,先の戦争において多くの科学者が戦争に協力してしまった反省の上に,1949年に日本の科学者を代表する機関として設立されました.世界の平和は軍事対応でもたらされることは決してありません.日本学術会議は1950年と1967年には軍事研究に関与しないという声明文を2度にわたって発表し,さらに2017年にも軍事転用が可能な研究への関与に慎重な姿勢を改めて示しました.会員の中には自分自身の研究成果に基づき,時の政府の政策に批判的態度を取る人もいるのは当然のことです.民主主義的な社会を支える基盤は多様な言論活動です.多様性は学術発展の前提であり,多様な意見の中から新たな発見・発展が生まれます.時の政府の政策に批判的態度を持つからといって,日本学術会議会員の任命を拒否されるような社会では,そのような発展は見込まれません.戦争をしないという憲法をもつ私たちは,時の政府から独立な立場の科学者の代表機関を持つことが大切であると考えています.

(本声明文は福岡県政記者クラブに2020年10月6日午後に報道要請文とともに届けました)