市民と科学者の対話(その4)
(null)/(null)/(null) (null)
以下のように第4回目の<市民と科学者の対話>をZoom によるネット配信で行います.
市民のみなさまも奮ってご参加ください.Zoom のURL 情報は,講演会当日の朝にこの
ホームページに発表します.
講 演:「ウクライナ問題の過去・現在・未来」
講演者:星乃治彦氏(福岡大学名誉教授・ドイツ現代史)
日 時:2022年5月15日 15:00〜16:30
主 催:日本科学者会議 福岡支部
様 式:Zoomによるオンライン開催(当日午前にZOOM情報を発表)
参加費:なし
要 旨:
今回の22年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、決して容認されるべきでは
ない。ただ、一刻も早い停戦、解決を望めば望むほど、問題の所在を的確に把握することが
必要である。一方的な情報に基づいて、戦後処理が不適切に行われることになると、多くの
禍根を残し、問題がこじれる可能性が大きく、世界は引き続き戦争の危険を背負ったままと
なる可能性もある。
プーチンが21年7月に公表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」をはじめ歴史的
根源や1941年からの大祖国戦争の経験、戦後の冷戦期ないし1989 年冷戦「終結」の問題、
2015年マイダン革命の検討、「ネオ・ナチ」攻撃など、ある種ロシア側の言い分にも耳を傾
け、ロシア側のいわば頭の中を垣間見ながら、多角的に分析することで、何が問題で、どう
すれば解決の糸口が見えてくるのかを、ここでは検討してみたい。
講演資料(pdfファイル)
<報 告>
JSA 福岡支部主催<市民と科学者の対話>第4回目として、講演会「ウクライナ問題の過去・現在・未来」が、5月15日にオンラインで開かれた。講演者は星乃治彦氏(福岡大学名誉教授・ドイツ現代史)である。
初めに星乃氏は、東ドイツ滞在時の経験を交えながら、「戦争の恐ろしさ」に改めて注意を向けた。ナショナリズムが煽られ、個人も自分の「死」をリアルなものとして感じられなくなる、世論の激変が戦争をエスカレートさせる。報道の在り方も問題である。今回のロシアのウクライナ侵攻は、決して容認されるべきではない。しかし、一刻も早い停戦、解決を望めば望むほど、もう少し冷静な目で、問題の所在を的確に把握することが必要である。「戦争に対する戦争」といった方向を考えている、と本講演の前置きを述べた。
「歴史=アイデンティティの中核」であり「歴史が戦争を起こす」とも言える、と講演者は、歴史的前提への理解を呼び掛けて、本論を始めた。まず、プーチンの論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」などに見る歴史の重み(言語の近似性、宗教的一体性など)、「ルーシ」の成立と発展、ロシア帝国の支配、を見る中で、民族的アイデンティティ問題の難しさが説かれた。続いて、第一次大戦後のポーランドへの編入とソ連邦への編入、スターリン体制化の「ホロドモール」とウクライナ民族主義の台頭、1941年からの大祖国戦争の経験、などから、いかに強く「ナチス」がトラウマになっているか、が明かされた。
戦後の冷戦期ないし1989 年冷戦「終結」の問題、この時期NATO に代わる全ヨーロッパ規模の新たな安全保障の仕組みを作るべきだったがそれに失敗した。その後のNATOの行動(ユーゴ空爆など)とロシア大国主義の行動(チェチェン紛争など)。
ウクライナは1991年に独立するが、政治不安定・ぶれがあり、経済的停滞も続く中で、言語的・歴史的かつ安全保障上の問題もあって、内部で東西に分裂傾向が強まっていく。そしてヤヌコーヴィッチ(親ロ派)政権下の2014年、EUをめぐって起きた「マイダン革命」が重要な転機となった。その後の対立は泥沼化し、「ミンスク合意」も効力を発揮できなかった。今回の戦争はこのマイダン革命から始まったとも言える、と指摘された。
戦争の中で、情報の役割が重要になっている。ウクライナ側からの情報に基づく西側世論の急進化も心配である。今は国連レベルの議論、国連の目を信頼すべきだ。その意味で、「アメリカのダブルスタンダード」も問題である。最後に星乃氏は、憲法9条を持つ国としては、「国」ではなく「人」の視点からの関与が大事として、反戦=一刻も早い交渉による停戦、国際法順守、人道支援、国連との共同歩調、の4点を強調し、「正義があれば時間はかかっても必ず達成される」と締めくくった。
オンライン画面上には、研究者、市民など36名が参加して、歴史研究者星乃氏のち密な内容の講演を聞いた。参加者との質疑では、〇西側・ロシア側に偏らない情報源として国連系の情報に注目、〇ウクライナ内の非暴力抵抗派の動きについて、〇西側がロシアを意識的に反対側に追いやった印象について、「歴史は必ず仕返しをする」という教訓、〇戦争情報の真偽は第三者的検証が必要で、確かな情報に基づく行動が重要、〇ドイツの世論の特徴と左派系政党の動きについて、〇国連事務総長の努力を含め、国連を中心にした解決方向を探ること、などが問題にされた。
ウクライナ情勢に関する情報が、真偽の判断の余裕を与えないが如くに、次から次へと降りくるときに、講師の言葉にあった「もう少し冷静な目で見る」ことの重要性、を心に刻んでおこうと思う。充実した講演会であった。
市民のみなさまも奮ってご参加ください.Zoom のURL 情報は,講演会当日の朝にこの
ホームページに発表します.
講 演:「ウクライナ問題の過去・現在・未来」
講演者:星乃治彦氏(福岡大学名誉教授・ドイツ現代史)
日 時:2022年5月15日 15:00〜16:30
主 催:日本科学者会議 福岡支部
様 式:Zoomによるオンライン開催(当日午前にZOOM情報を発表)
参加費:なし
要 旨:
今回の22年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、決して容認されるべきでは
ない。ただ、一刻も早い停戦、解決を望めば望むほど、問題の所在を的確に把握することが
必要である。一方的な情報に基づいて、戦後処理が不適切に行われることになると、多くの
禍根を残し、問題がこじれる可能性が大きく、世界は引き続き戦争の危険を背負ったままと
なる可能性もある。
プーチンが21年7月に公表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」をはじめ歴史的
根源や1941年からの大祖国戦争の経験、戦後の冷戦期ないし1989 年冷戦「終結」の問題、
2015年マイダン革命の検討、「ネオ・ナチ」攻撃など、ある種ロシア側の言い分にも耳を傾
け、ロシア側のいわば頭の中を垣間見ながら、多角的に分析することで、何が問題で、どう
すれば解決の糸口が見えてくるのかを、ここでは検討してみたい。
講演資料(pdfファイル)
<報 告>
JSA 福岡支部主催<市民と科学者の対話>第4回目として、講演会「ウクライナ問題の過去・現在・未来」が、5月15日にオンラインで開かれた。講演者は星乃治彦氏(福岡大学名誉教授・ドイツ現代史)である。
初めに星乃氏は、東ドイツ滞在時の経験を交えながら、「戦争の恐ろしさ」に改めて注意を向けた。ナショナリズムが煽られ、個人も自分の「死」をリアルなものとして感じられなくなる、世論の激変が戦争をエスカレートさせる。報道の在り方も問題である。今回のロシアのウクライナ侵攻は、決して容認されるべきではない。しかし、一刻も早い停戦、解決を望めば望むほど、もう少し冷静な目で、問題の所在を的確に把握することが必要である。「戦争に対する戦争」といった方向を考えている、と本講演の前置きを述べた。
「歴史=アイデンティティの中核」であり「歴史が戦争を起こす」とも言える、と講演者は、歴史的前提への理解を呼び掛けて、本論を始めた。まず、プーチンの論文「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」などに見る歴史の重み(言語の近似性、宗教的一体性など)、「ルーシ」の成立と発展、ロシア帝国の支配、を見る中で、民族的アイデンティティ問題の難しさが説かれた。続いて、第一次大戦後のポーランドへの編入とソ連邦への編入、スターリン体制化の「ホロドモール」とウクライナ民族主義の台頭、1941年からの大祖国戦争の経験、などから、いかに強く「ナチス」がトラウマになっているか、が明かされた。
戦後の冷戦期ないし1989 年冷戦「終結」の問題、この時期NATO に代わる全ヨーロッパ規模の新たな安全保障の仕組みを作るべきだったがそれに失敗した。その後のNATOの行動(ユーゴ空爆など)とロシア大国主義の行動(チェチェン紛争など)。
ウクライナは1991年に独立するが、政治不安定・ぶれがあり、経済的停滞も続く中で、言語的・歴史的かつ安全保障上の問題もあって、内部で東西に分裂傾向が強まっていく。そしてヤヌコーヴィッチ(親ロ派)政権下の2014年、EUをめぐって起きた「マイダン革命」が重要な転機となった。その後の対立は泥沼化し、「ミンスク合意」も効力を発揮できなかった。今回の戦争はこのマイダン革命から始まったとも言える、と指摘された。
戦争の中で、情報の役割が重要になっている。ウクライナ側からの情報に基づく西側世論の急進化も心配である。今は国連レベルの議論、国連の目を信頼すべきだ。その意味で、「アメリカのダブルスタンダード」も問題である。最後に星乃氏は、憲法9条を持つ国としては、「国」ではなく「人」の視点からの関与が大事として、反戦=一刻も早い交渉による停戦、国際法順守、人道支援、国連との共同歩調、の4点を強調し、「正義があれば時間はかかっても必ず達成される」と締めくくった。
オンライン画面上には、研究者、市民など36名が参加して、歴史研究者星乃氏のち密な内容の講演を聞いた。参加者との質疑では、〇西側・ロシア側に偏らない情報源として国連系の情報に注目、〇ウクライナ内の非暴力抵抗派の動きについて、〇西側がロシアを意識的に反対側に追いやった印象について、「歴史は必ず仕返しをする」という教訓、〇戦争情報の真偽は第三者的検証が必要で、確かな情報に基づく行動が重要、〇ドイツの世論の特徴と左派系政党の動きについて、〇国連事務総長の努力を含め、国連を中心にした解決方向を探ること、などが問題にされた。
ウクライナ情勢に関する情報が、真偽の判断の余裕を与えないが如くに、次から次へと降りくるときに、講師の言葉にあった「もう少し冷静な目で見る」ことの重要性、を心に刻んでおこうと思う。充実した講演会であった。
(報告者:西垣 敏)