岸田首相への要請書
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【要請書】
日本学術会議が推薦している6名の新規会員を速やかに任命してください
2021年10月11日
日本科学者会議福岡支部幹事会
内閣総理大臣 岸田文雄 殿
日本学術会議が昨年10月以降引き続き要望している以下の2項目に誠実に対応し,速やかにその要望に応えてください.
【1】「2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり,推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい」,
【2】「2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち,任命されていない方について,速やかに任命していただきたい」
以下に要請の理由を述べます.
昨年10月,菅前首相は日本学術会議が推薦する次期会員候補105名のうち6名の任用を明確な理由も示さず拒否しました.日本学術会議は直後の10月2日の第181回総会において,菅前総理大臣に上記の【1】,【2】の内容の「第25期新規会員任命に関する要望書」を決議し政府に提出しました.その後,幾多の学協会・学術団体・大学関係者等からこの2項目の内容に沿った要望や声明が菅前総理・政府,国民に対して発出されています.福岡の科学者をメンバーとする私たち日本科学者会議福岡支部も昨年10月5日に,菅前総理大臣が速やかにこの①,②の2つの要望を受け入れることを強く要請しましたが,その後の1年の間何の誠実な対応もありませんでした.その間,日本学術会議は違法な状況に置かれたままで,その業務に支障を来しています.また,日本学術会議は今年2021年4月22日の第182回総会において「日本学術会議会員任命問題の解決を求めます」との声明を発出し,菅前総理に対して再度上記【1】,【2】の項目を要望しています.
日本学術会議法は,第七条に「日本学術会議は,二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という)をもつて,これを組織する. 2 会員は,第十七条の規定による推薦に基づいて,内閣総理大臣が任命する」として,第十七条では「日本学術会議は,規則で定めるところにより,優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し,内閣府令で定めるところにより,内閣総理大臣に推薦するものとする」とその組織構成について定めています.また,1983年5月に日本学術会議会員が公選制から推薦制へと法改正された折りの国会審議に於いて,当時の中曽根康弘内閣総理大臣は,「政府が行うのは形式的任命にすぎません.したがって,実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので,政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば,学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております」と答弁しています.つまり,菅前首相が日本学術会議の推薦した会員候補の中の6名を任用拒否したことは明確に違法行為です.
また,日本学術会議法の第2章「職務及び権限」第3条に日本学術会議の職務は,(1)「科学に関する重要事項を審議し,その実現を図ること」,(2)「科学に関する研究の連絡を図り,その能率を向上させること」を独立して行うとされています.さらに同第5条には,(1)「科学の振興及び技術の発展に関する方策」,(2)「科学に関する研究成果の活用に関する方策」,(3)「科学研究者の養成に関する方策」について政府に勧告することができるとあります.第3条に「独立して」職務を行うとありますが,それは,日本学術会議は「内閣総理大臣の所轄」でありながら,総理大臣からも独立しており,その指揮監督を受けないという意味です.また,政府に対して「勧告」するのですから時の政府の政策から独立した立場であることは当然の前提です.つまり,その独立性は,時の政権の意向・政策にとらわれず,学者・科学者がその専門的学識と良心に基づき「科学者の総意の下に, わが国の平和的復興,人類社会の福祉に貢献し,世界の学界と提携して学術の進歩に寄与する」という日本学術会議法の前文にある使命を果たすことを保証する仕組みといえます.日本の統治機構として,こうした時の政権の政策・意向に忖度することなく,学術・科学に関する勧告と政府からの諮問に対する答申を行える仕組みがあることは,民主主義国家として重要且つ不可欠であり,今後も維持発展させて行く必要があります.
去る9月30日の日本学術会議会長談話に於いて梶田会長は,「科学的知見を尊重した政策的意思決定がこれまでにも増して求められる現状にあって,日本の科学者の代表機関としての本会議が科学者としての専門性に基づいて推薦した会員候補者が任命されず,その理由さえ説明されない状態が長期化していることは,残念ながら,科学と政治との信頼醸成と対話を困難にするものだと言わなければなりません.第25期発足から1年にあたり本会議は,第 182 回総会声明を再度確認して,相互の信頼にもとづく対話の深化を通じて現在の危機を乗り越える努力が重ねられることを強く希求いたします」と述べ,【1】「2020年9月30日付で山極壽一前会長がお願いしたとおり,推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい」,【2】「2020年8月31日付で推薦した会員候補者のうち,任命されていない方について,速やかに任命していただきたい」との2つの要望を強く政府,内閣総理大臣に求めています.
10月4日に菅前総理大臣に替わり内閣総理大臣に就任された岸田総理は,昨年この問題が起こった折りに自民党の前政調会長として2020年10月21日に,日本記者クラブで会見し,日本学術会議の会員任命見送りをめぐる政府の理由説明について「総合的,俯瞰(ふかん)的な判断と言うだけで済ますのは乱暴ではないか」と述べ,同時に「丁寧な説明を続けなければならない」と求めました.また,「学術と政治は協力していくべきものだ.対立した雰囲気があることは残念だ」とも語ったと報道されています(産経新聞).ところが,この9月の自民党総裁選の討論会では「すでに行われた人事をひっくり返すことは考えていない.学術会議自体のありようが議論されている.それも踏まえて次の人事はしっかり考えていく」と述べたと報道されています(朝日新聞).しかし,日本学術会議の置かれている会員が6人欠員している状況は「すでに行われた人事」で済まされるものではありません.菅前総理の任命拒否以降続く法に定める定員を満たしていない違法状態に対して日本学術会議から6名の任命が要請され続けています.その要請は,上記の梶田日本学術会議会長の9月末の談話にもあるとおり現在も真摯に続いているものです.現在,内閣総理大臣の職にある岸田文夫氏にはその要請に速やか且つ誠実に対応する責務があると私たち日本科学者会議福岡支部は考えます.
最後に再度,私たち日本科学者会議福岡支部は,岸田内閣総理大臣がすみやかに日本学術会議の2項目の要望を受け入れられることを要請します.