美術館めぐり(その2)

3.パリへ

 パリのシャルル・ドゴール空港には,結局,パリ時間で午後4時20分に到着した.飛行時間は11時間あまりである.入国審査を経て荷物を受け取って外に出たのが5時であった.それにしても,フランスの入国審査はいい加減だ.まず,はじめに,closed(仏:fermé)と表示のあるところに審査官がいて入国審査をしている.そのとなりも入国審査をしているが,そこでは表示そのものが消えている.われわれもその列に並んで審査を待った.順番が来てパスポートを渡すと,審査官はやる気のなさそうな素振りでパスポートをパラパラとめくっただけで返してきた.簡単でよいという見方もできるが.よその国ながらもう少しきちんと入国審査をした方がよいのではないですか,という老婆心が起きてしまう.入国年月日の入ったスタンプも押してくれない.もっとも,ぱらぱらと見ている間にパスポートの写真を見て,本人を確認したのかも知れない.もしそうなら,それで十分なのかも知れない.しかし,入国スタンプを押してくれなかったのには不満が残った.

 シャルル・ドゴール空港からは,エール・フランスバスでパリ市内まで行くことにした.バスは30分に1本の割合で出ている.他の交通機関より割高な€15であるが,このバスの終点が有名な凱旋門であり,われわれが宿泊するホテルがその凱旋門から200mのところにあるので便利だ.パリには凱旋門が五つもあり,したがって「凱旋門」(arc de triomphe)というよりは「エトワール」と言ったほうが運転手には通じやすい.シャンゼリゼ通りにつづく有名な凱旋門のまわりの広場をエトワール広場という.1970年にシャルル・ドゴール広場と改称されたが,エトワール広場という言い方も依然として使われている.地下鉄の駅名も,シャルル・ドゴール=エトワールである.エトワールという名称は,この広場から12本の大通りが放射状にのびていることに由来する.エトワール(étoile)の意味は星である.数学的には6本の直線が広場の中心で交わっているということにすぎない.隣の直線(道路)との角度は30度である.

 ホテルには6時過ぎに到着した.フロントで予約をしている旨を伝えて,こちらの名前を言おうとすると,向こうからMiyoshi?と先に私の名前を言われた.本日,チェックインする東洋人はわれわれしかいないのであろう.エレベータは無いという.部屋番号は222であり2階と言われたので,重い荷物をかついで狭い階段を1階分上がったところで部屋番号を探したがそこには見あたらない.今度はそこに荷物を置いて狭い階段をもう1階分上がってみた.あがってすぐのところが222であった.考えてみれば,ヨーロッパでは,イギリスと同じ階の呼び方が普通で,一階がグラウンド階,二階が一階,三階が二階である.

 重い二つの荷物を部屋まで2階分持ち上げて,部屋でひと休みした.7時半ころから外に出て,エトワール広場の凱旋門からウィンドー・ショッピングしながらシャンゼリゼ通りをコンコルド広場まで行き,さらにルーブル美術館まで散歩した.外はまだ明るい.シャンゼリゼ通りは車道も広くて片側4車線である.歩道もたいへん広い.片側の歩道の広さは6車線が取れるほどの広さがあり,そこにプラタナスの並木がある.プラタナスはまだ冬木のままである.土曜の夜ということもあり,たくさんの人出である.歩道にはカフェがあり多くの客で賑わっている.人をかき分けながら凱旋門から1km程行くと並木は3列になり,そのうち2列はマロニエに変わる(写真3).マロニエはすでに新緑である.花はまだであるが,よく見ると黄土色のつぼみが頭をもたげていた.10日後に訪れたミラノではマロニエの白い花が,(江戸時代の)火消しのまといの様な形で頭をもたげて咲いていた.ミラノのほうがパリよりいくらか南なので花期が早いのかもしれない.この辺りの左奥に大統領官邸のエリゼ宮がある.
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写真3 シャンゼリゼ通りの並木

 まもなくコンコルド広場に到着した.広場の中心には,エジプトから贈られたというオベリスクがそびえている(写真4).コンコルド広場からは,振り返ると西にエトワールの凱旋門,東にカルーゼル凱旋門,北にギリシャ神殿を思わせるマドレーヌ教会,南にブルボン宮を見渡すことができる.ブルボン宮は,現在,フランス下院の国会議事堂として使用されているという.高いビルがないためか,パリの中心は広々としている.
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写真4 コンコルド広場のオベリスク

 コンコルド広場を過ぎてチュイルリー公園に入る.公園に入ったすぐ右手にオランジュリー美術館がある.明日は一番にここを訪れる予定にしている.この公園にも多くの人が大きな噴水池のまわりのベンチや芝生に座ってくつろいでいる.8時30分を過ぎているが,まだ西日が入り残っている.しばらく歩くとカルーゼル凱旋門をぬけてルーブル美術館に到着する(写真5).今日は様子見である.ホテルからルーブル美術館までの距離感もつかめた.チーズと赤ワインを買って,帰りは地下鉄を利用することにした.
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写真5 ルーブル美術館とガラスのピラミッド

 パリの地下鉄は乗り換え自由でどこまでも行っても€1.6である.切符の自動販売機の前でまごまごしていたら,おばさんが来て切符2枚を€3.2で売ってくれた.私がコインのすべてを手のひらに広げて€3.2を出そうとしていたら,おばさんはさらに2枚を€3で売ってやると言ってくれた.結局,4枚を€6.2で買ったことになる.他の地下鉄駅でも切符の売り子にお世話になった.ルーブル美術館駅からシャルル・ドゴール=エトワール駅に行けばよい.電車に乗ったがまったく別の線に乗ってしまったようだ.最初の駅で降りてルーブル美術館駅に引き返し,今度は慎重に乗るべきホームを探した.パリの地下鉄では,自分の行く路線の終着駅を認識しておくことが大切である.われわれの乗るべき地下鉄の終着駅がLa Défenseであることを確認してそのホームを探した.電車に乗って最初の駅がチュイルリー駅であることをみて安心した.チュイルリー駅から四つ目の駅がシャルル・ドゴール=エトワール駅である.ホテルに帰ってきたのは9時過ぎであったが,西の空は幾分明るかった.ホテルのフロントで部屋のキーを貰うとき,英仏語の混成で部屋番号をトリプル・ドゥと言ったら通じなかったので,ドゥ・ドゥ・ドゥと言ったら通じた.翌朝の朝食をお願いした.朝食は7時30分からという.

(2010/5/22, E. M.)