美術館めぐり(その8)

8.ベルサイユ宮殿へ
 4月13日は朝から,ベルサイユ宮殿に行くことにした.ここで書き残しておきたいことは,ベルサイユ宮殿(写真40,宮殿内の中庭)の見聞録 でなく,ベルサイユ・リヴェゴーシュ駅におけるフランスの鉄道での奇妙な経験である.ベルサイユ宮殿については,何かを書き残して置きたいほどのことはあ まりなかった.ただ,お昼に食べたほかほかのジャガイモとチーズの弁当が美味しかったこと,ダヴィッドの「皇帝ナポレオン一世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠 式」の真作がルーブル美術館とは別にもう一つベルサイユ宮殿内にあることをはじめて知ったこと,くらいであろうか.

article025_clip_image002 写真40 ベルサイユ宮殿の中庭

 地下鉄のシャルル・ドゴール=エトワール駅では,有人の出札口を探し出せず,また,自動改札機でベルサイユまでの切符をどうやって買うのか分からず,取り敢えず地下鉄の切符を買って地下鉄に乗り込む.無論,どこかで精算するつもりである.シャルル・ドゴール=エトワール駅から3つめのシャンゼ リゼ・クレマンソー駅で別の地下鉄に乗り換えアンヴァリッド駅に着く.ここで地下鉄からベルサイユ・リヴェゴーシュ駅に向かう近郊列車に乗り換えなければ ならない.
 地下鉄アンヴァリッド駅の中の通路で「ベルサイユ・リヴェゴーシュ駅に行きたいのだが」と背の高い駅員に英語で聞いて,駅員が示してくれた改 札機に地下鉄の切符を入れるとそのまま通過できた.プラットホームに出て,確かにベルサイユ・リヴェゴーシュ駅行きの電車があることを確認した.しかし, 地下鉄の切符でベルサイユまで行けるわけはないので,どこかでベルサイユ・リヴェゴーシュ駅までの切符を手に入れる必要がある.最後の最後になれば出口で 精算すればよいと割り切って,ホームに入ってきた2階建ての電車の2階部分に乗り込んだ.電車には,通勤風の人々が乗っている.電車は,はじめはセーヌ川 沿いを走っていたが,セーヌ川を離れると次第にパリの郊外といった風情になり,建物も疎らになってくる.乗客も次第に少なくなる.終着ベルサイユ・リヴェ ゴーシュ駅に着く頃には,乗客は2階部分のコンパートメントで数人となっていた.
 われわれの持っている切符はパリ市内の地下鉄の切符である.これで駅の外に出ることはできない.どうしたものかと思案しながら改札口に近づく と,前に背の高い,190 cmはあると思われる黒人が「よっこいしょ」と改札機を長い足で越えているのが見えた.駅員らしい人もいるようだが,誰もなんとも言わない.これが正式の 出方なのかと一瞬考えてしまったが,家内の足であの動作は無理だというまともな考えが戻ってきた.
 改札機の横に駅の窓口があったので,精算するつもりで地下鉄の切符を2枚見せて,「出たいのだが」と英語で駅員に尋ねた.駅員は,「この切符 はvalidではない」と言って奥へ行ってしまった.「validでないことなんかは分かっているんだって..」と思いながらまっていると,新しい切符を 2枚差し出して,これを使えという.お金を払おうと思ってポケットに手を入れると,駅員はさっさとひっこんでしまった.こちらも,要らないというものを是 非とも払うという立派な根性がある方ではないので,そのまま新しい切符2枚を頂いて,それを使って改札機を通過した.結局,パリ市内からベルサイユまでを €1.6で来たことになる.
 これは一体どうしたことであろうか.フランスでは,そもそも,精算するというシステムがないのであろうか.駅員の態度を見ているとそうとしか 思えない.してみると,先ほどの背の高い黒人が,予定変更して終着のベルサイユ・リヴェゴーシュ駅まで来たのであるならば,彼の改札機の通り方は「正し い」方法であったのかも知れない.
 帰りに駅の改札口で「パリ市内の地下鉄駅」といって買った切符の値段は,€2.95であった.今でもパリ市内の地下鉄駅からベルサイユ・リ ヴェゴーシュ駅までの正しい切符の買い方が分からない.もっとも,有人の地下鉄改札口を探し出して,口頭で購入すれば問題はない.切符の精算システムがど うなっているのかも知りたいところである.

(2010/12/15 E. M.)