「日本の科学者」1月号のJSA福岡支部読書会は,1月号に掲載された編集委員会によるインタビュー記事【「市民と科学者を結ぶ」ためにいま必要なこと −宮本憲一氏に聞く】の宮本憲一さんをゲストに招いて行われた第31回JJSオンライン読書会(「日本の科学者」編集委員会主催)に参加することに置き換えました.会は,2月7日(土)の14時から2時間50名以上の参加で,宮本さんの「日本の科学者」の記事を補足する形での1時間以上の講演が主な内容でした.自らが主に公害に対する市民運動・社会運動に関わってこられた実体験・経験に基づくお話で,感銘を受けかつ考えさせられる内容でした.
宮本さんは,「日本の科学者」1月号のインタビュー記事では語ることができなかった2つの点について話をしておきたいとして,アスベスト被害に対する取り組みを十分に行えなかったこと,日本の食糧自給率の低さと都市と農村との関係についての提言を中心にお話しされました.
1点目のアスベスト問題については,1980年代にアメリカに留学する前から問題は認識していたが,アスベストを扱う労働者にとっての労災的な問題としか捉えていなかったと初期の認識の甘さを悔やんでいると話しを始められました.留学中にアメリカでのアスベスト訴訟で訴えられた被害の深刻さを知り衝撃を受け,またセルコフ教授から日本でのアスベスト問題の調査を促されたが,十分に取り組まなかったことを後悔したと話されました.アスベストの実際の被害が数年後に健康被害が現れるというもので,それが明確になるまでは建築基準としてアスベストの使用が推奨されているような状況であったため,これほどまでに広範で甚大な問題になるとは予測できず,帰国後に現地調査を行わなかったことが悔やまれたそうです.そのお話の中で,海外の研究者との国際的な協同,情報の交換・共同研究が重要であることも強調されました.
日本におけるアスベストの問題については,日本では海外の事例に対する見識の不足等もあって,規制の遅れと危機感の欠如が問題であったと指摘されました.特に,大きな災害のたびに建造物の多くの構造からアスベストが飛散し,救助活動にあたった人々にまで被害が出ていることから,今後も,自治体の調査やその結果の地図上への情報の集積が不可欠であると提言されました.また,沖縄の米軍基地でもアスベストが大量に使用されているが,調査や情報公開が不十分で周辺住民にも被害が出ており重大な問題であるとの指摘もされました.
2点目の日本の食糧自給率の低さと都市と農村との関係については,最初に,ヨーロッパの都市ではその近郊の農村部を含めて各都市圏内で食糧の自給を確保するという伝統的な考えがあることを紹介されました.それが,多くのヨーロッパの先進国では食糧の自給率が70%を越えていることの基盤にあることを強調されました.それに対して,日本の食糧自給率が38%と先進国の中では突出して低いことは重大で,ドイツやイタリアのように都市と農村の共生を政策の原理に据えるべきだと提言されました.
尤も,この問題は戦後の日米の関係と高度経済成長政策によって農業を切り捨ててきた日本政府の政策の生み出した問題で,その方向転換にあたって,宮本さんの提言は基本的な考えとしてはその通りなのですが,とても一朝一夕ではすすまない取り組みになるだろうと感じました.
お話の全体を通して,宮本さんは,科学・技術とその産物を含めての社会実装にあたっては,これまでの人類の経験から学んで新しい科学や技術の産物の含む負の側面にも注視し,科学者が本来持っている国際的連携から得られる知見も取り入れ,早い段階から市民と協力して予防原則に基づく取り組みをする必要性を強調されました.
(報告者:小早川義尚)

