「8月例会が参加希望者の日程が調整できなかったために,9月8日(月)に『日本の科学者』8月号(特集「社会的ひきこもり,登校拒否・不登校の今日的課題と展望」)と9月号(特集「学問の自由と揺らぐ基盤」)を合わせて9月例会を行いました.
報告は2つで,まず,黒澤さんが8月号の特集にある「ひきこもりの長期・高齢化と家族への支援 ― ひきこもりつつ豊かな人生を」(著者:田中義和)を紹介されました.内容の概略は,以下の通りです.
・ひきこもりの長期・高齢化が進み,平均ひきこもり年数は11年を超える.ひきこもりの初発年齢は平均19.7歳で,学校での人間関係やいじめ,就職活動・職場での人間関係がきっかけとなっている.また,入学・進学,就職・移動などの機会に伴って起こる場合も多い.
・それに対して,公的なひきこもり支援指針は2001年,2010年,2025年と三度に渡り整備されてきたが,地域支援センターの設置は進まず,独自法がないため支援が届いていない.
・就労自立が困難な現実から,生き方支援論が提唱され,就労だけでなく多様な社会参加支援が求められている.ひきこもり期間を肯定的に捉え,家庭を中心とした生活充実も支援対象に含めるべきとの指摘がある.
報告を受けて,具体的に身の回りで観られる実例などやうつ病や双極性障害などによる社会参加への困難などの事例も含めて討論が行われました.また,いわゆる就職氷河期の年代にそうした事例が多くなっているのではないかとの意見もだされました.
次に,小早川が9月号特集にある「現代の学問の自由に関するQ&A ― 若い世代との対話から(著者:羽田貴史)を紹介しました.内容の概略は,以下の通りです.
・学問の自由は憲法で保障され,大学教員の研究,発表,教育,学生の学ぶ自由を含む.しかし,近年,特にトルコ,インド,中国,イラン,ベネズエラ,ロシアなどで政府批判を理由に侵害が増加している.米国でも,愛国者法による監視強化や,DEI禁止法案,大学補助金削減などの動きが見られる.
・学問の自由は民主主義社会に不可欠だが,無制限ではなく倫理的責任が伴う.日本では学問の自由侵害事例が報告されており,政府や政治家の干渉だけでなく,社会からの圧力も問題となっている.日本のメディアや大学の方針では学問の自由が十分に扱われておらず,歴史的背景も影響している.
・学問の自由の危機の根源は,学生の自由な精神の成長より業績重視,基礎科学より実践的学問重視の風潮にある.大学教員の学問の自由に対する理解不足も問題で,大学自治と学問の自由の関係性を誤解する論文も見られる.日本の大学団体は設置形態別に分かれ,共通の利益よりも対立構造にあり,学問の自由を守る力が弱い.*
・西洋思想の自由思想の歴史に触れ,日本の思想の貧弱さを嘆きつつも,それを知ることも重要だと述べている.
討論では,「アメリカの主要な大学は学問の自由の擁護を大学の方針に掲げ,教職員・学生の権利と義務,大学の責任を明記していますが,日本の大学ではどこも明記していません.」という記述に対して,日本の大学でも大学の憲章として学問の自由に言及している例も多いとして,九州大学の学術憲章や教育憲章の内容が挙げられました.また,下線部*に関して日本の大学団体の動きとして日本私立大学連盟の「新たな公財政支援のあり方について(2024)」などの資料もあげて議論されました.
(読書会世話人代行:小早川義尚)
2025/09/08 「日本の科学者」読書会9月例会の報告 8月号特集「社会的ひきこもり,登校拒否・不登校の今日的課題と展望」/ 9月号特集「学問の自由と揺らぐ基盤」
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