2025/02/18 福岡核問題研究会例会(12/22, 1/25)の報告

<福岡核問題研究会12月例会>
日時:12月22日(日)10:00〜12:00
話題:「IAEAの5層の深層防護の見直しについて」
話題提供:中西正之さん

<福岡核問題研究会1月例会>
日時:1月25日(土)10:00〜12:00
話 題:①「イギリスと日本で進む米国核再持込の動き」
話題提供:豊島耕一さん
話 題:②「被団協のノーベル平和賞受賞について」
話題提供:本庄春雄さん

 12月例会は,通常土曜日に行なっているが都合がつかず日曜日に行うことになった.中西正之さんに「IAEAの5層の深層防護の見直し」について報告していただいた.中西さんは,2024年11月27日に仙台高等裁判所で発表された女川原発運転差止請求控訴事件の判決(原告団敗訴)を契機に日本の原発の深層防護対策の現状と課題を論じた.
  2014年12月に日本原子力学会標準委員会から発表された報告書「原子力安全の基本的考えについて」は,福島事故以前の日本の原発関係の組織全体で5層の深層防護論の無視から,事故後に国際的な批判を受けて日本原子力学会が報告書をまとめたという.しかし同報告書にはIAEAやヨーロッパの原子力界の5層の深層防護論と米国の深層防護論を併記して,IAEAやヨーロッパの5層の深層防護論をぼかしていると批判した.米国の深層防護論はかなりお茶を濁しているという.
 米国の原子力規制委員会( NRC)の深層防護の考え方は,IAEAの5層の深層防護の考え方とはかなり異なっており,未知のリスクに対する対策を最重視している.そして,日本の商用原発は,加圧水型も沸騰水型も,米国の基本設計に依存し,設計も製造も米国の原発製造会社からのロイヤリティ生産に依存したことが,日本における「IAEAの5層の深層防護」の軽視や無視の遠因になったのではないかと指摘された.
 女川原発2号機と島根原発2号機の再稼働が始まっている現状において,IAEA第4層のシビアアクシデント対策の欠如が一部改善されたとはいえ,水蒸気爆発対策や溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)対策は依然として行われてはいない.「日本の原発が依然として持ち続けている,IAEAの5層の深層防護対策における大きな欠陥について明確にしていく必要がある」と報告を結ばれた.

 1月例会では,2つの報告がなされた.1つの話題は「イギリスと日本で進む米国核再持込の動き」と題して豊島耕一さんが報告された.
 2024年9月に広島県呉市で開催された「大軍拡と基地強化のNO! 西日本交流集会」での山本眞直氏(沖縄)の報告により,辺野古弾薬庫の「再編・拡張」工事が,核弾薬庫ではないかという疑惑が明らかになったという.米海兵隊の辺野古弾薬庫の「施設変更計画」を明記した統合管理計画には,「13の弾薬庫を解体し,「非伝播性の壁」と「武器組み立てエリア」を含む12の弾薬庫に置き換える」とある.核兵器は,普段は兵器本体とフルとニウムなどの核分裂物質を分離しておき,大統領からの攻撃指令が出て初めてこれらを合体させる.それを行う場所が「武器組み立てエリア」である.また,「非伝播性の壁」というのは,厚さ7 mのコンクリートの壁であり,核物質から放出される放射線を遮断するためのものである.「非伝播性の壁」と「武器組み立てエリア」を必要とする兵器は核兵器以外にはない.
 イギリスでもロンドンから約100 km北東にあるレイクンヒース空軍基地に2025年から米国の核弾頭が新たに配備される計画が浮上してきているという.レイクンヒース基地は過去にも米国の核兵器が保管されていたが,グリーナムコモン運動などの市民運動により撤去された.「レイクンヒース平和連合」(Lakenheath Alliance for Peace)のサイトでは以下のように述べている.「米国がレイクンヒース基地に核兵器を配備する準備を進めているという証拠が増えている.これは,米国防総省が数百万ドルのインフラ整備計画のもと,ヨーロッパにあるNATOの核兵器保管場所のリストにイギリスを加えたことに端を発している.米空軍の2024年予算の正当化パッケージの一部として発表された書類には“surety dormitory”の必要性が概説されている.“surety”とは,核兵器を安全に保管する能力を指す言葉である.書類によれば,144台のベッドの寄宿舎は“surety”任務の空軍兵士と2つのF-35飛行隊のために必要だという.工事は2024年6月から2026年2月まで続く予定である」.
 イギリスも日本も米国の核兵器の再持込みがなされようとしている.これらの動きは,たまたま一致したことではなく,「核のタブー」が壊されようとしていることなのか.

 もう1つは,「日本被団協のノーベル平和賞受賞」について本庄春雄さんに話題提供していただいた.日本被団協のノーベル平和賞受賞の理由の第一は,核兵器廃絶に向けてたゆまぬ努力を続け核兵器のない世界の実現に尽力してきたことによる.そして日本被団協は,核兵器の使用は道徳的に容認できないという国際規範,いわゆる「核のタブー」の確立にも貢献した.80年近くの間,戦争で核兵器が使用されなかったことは心強い事実である.しかしこの「核のタブー」は,いま圧力のもとにあるという憂慮すべき事態となっている.
 原爆被害に対する国家補償と核兵器廃絶という基本目標を掲げて1956 年に結成され日本被団協の田中煕巳(てるみ)代表は受賞講演の中で,「ウクライナ戦争における核超大国のロシアによる核の脅威、また、パレスチナ自治区ガザ地区に対しイスラエルが執拗な攻撃を続ける中で核兵器の使用を口にする閣僚が現れるなど」と述べ、核兵器の脅威が迫っていることや核兵器使用は道徳的に許されないという国際的規範である「核のタブー」が崩されようとしていることへの警告を発信した.さらに,日本被団協の設立趣旨を説明し,被爆者達が占領軍に沈黙を強いられ,日本政府からも見放されたことにも触れながら,原爆を使用した米国と今だに被爆補償で不完全な姿勢の日本政府を批判しました.プーチンのロシアだけではなく,ネタニヤフのイスラエル,米国,日本をも世界に向けて批判する日本被団協の毅然さと覚悟は強く私たちの胸を打ったことは記憶に新しい.
 ノーベル平和賞選考委員会のフリードネス会長は挨拶の中で,
「今年の平和賞は「生きる権利」という,もっとも基本的な人権にかかわるものだといえます.今回の受賞は,人類のために最善を尽くすことに生涯を捧げてきた人々を表彰したいというアルフレッド・ノーベルの望みにかなったものです」と述べられ,最後に
「世界の安全保障が核兵器に依存するような世界で,文明が存続できると信じるのは浅はかです.世界は,人類の壊滅を待つ牢獄ではないはずです.たとえどれほど長く困難な道のりであっても,私たちは日本被団協から学ぶべきでしょう.決して諦めてはなりません.
・だからこそ,被爆者たちの体験談に耳を傾けましょう.
・彼らの勇気が、私たちを鼓舞してくれるでしょう.
・彼らの忍耐強さが,私たちの原動力となるでしょう.
・私たち皆で,核のタブーを守り続けるために努力しようではありませんか.
 私たちの生存は,それにかかっているのですから」と日本被団協の受賞を祝福された.
(報告者:三好永作)