2025/11/22 福岡核問題研究会11月例会の報告

日時:2025年11月22日(土)10:00〜
講演者:北岡逸人(きたおかはやと、非会員、元新潟県柏崎市市会議員)
講演題目:「泊原発の設置変更許可の取消しを求める審査請求&その背景について」

 
 この講演は、「北海道電力の泊原発3号機の設置変更許可」の取消しを求める審査請求と、その背景にある技術的・本質的な問題について説明したものである。

  1. 審査請求の目的と背景
    • 2025年10月末、国の原発審査に重大な問題があるため泊原発3号機の設置変更許可の取消しを求める審査請求を、原子力規制委員会 に対して郵送で実施した※。
    • 重大な問題とは水蒸気爆発対策の放棄で、この問題は全国の加圧水型原発(PWR)に共通する。
  2. 水蒸気爆発の危険性
    • PWRの水素爆発対策が水蒸気爆発を招く恐れが高く、その際、毒性のある微粒子(プルトニウムなど)により福島原発事故を超える被害が生じる可能性がある。
    • 事故時に原子炉の下に大量の水を貯める水素爆発対策で、溶け落ちた核燃料などが床コンクリートと反応して水素が発生するのを防止できたとしても、不可避的に高温液体(溶融物)と水が接触して水蒸気爆発(体積膨張)する可能性がある。
    • その際、核燃料など溶融物は微粉化して、格納容器は破壊される恐れがある。
  3. 規制委員会の水蒸気爆発対策の問題
    • 規制委員会は「水蒸気爆発の可能性は極めて低い」と水蒸気爆発対策を不要と判断したが、爆発の確率と対策を不要とする爆発確率の基準を数値で明示していない。
    • 水だけでホウ酸水を使った水蒸気爆発の実験がないにもかかわらず、水もホウ酸水も変わりないと判断した規制委員会の見解は、ホウ酸水を使った海外の実験結果(下図参照、水よりホウ酸水は爆発が強くなった)により見直しが必要である。
    ※事故時に貯める水は核物質の再臨界防止のためにホウ酸水が使用される。

「異なる溶液中における蒸気爆発のピーク圧力と急冷深度との関係」

 蒸留水と比較すると、化学溶液中での蒸気爆発は主に28mmから40mmの狭い深さ範囲で発生し、はるかに高いピーク圧力を生じる。これは化学溶液中ではより高エネルギーな蒸気爆発が発生する可能性を示唆している。※左図は以下論文より、縦軸がピーク圧力、横軸が急冷深度、DIは脱イオン水、H3BO3はホウ酸水

An experimental study on the effect of chemical additives in coolant on steam explosion https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0017931023009638

4. 泊原発の現状

  • 泊原発3号機は2009年から営業運転開始したが2012年から13年以上停止中。
  • 2025年7月に設置変更許可を取得し、再稼働に向けた準備が進められている。

5. 行政不服審査制度の活用

  • 行政不服審査法に基づく審査請求(行政処分などに対する異議申立て)は審査請求書を提出・送付すれば無料で行え、裁判と違い違法性だけでなく不当性も問える。
  • 審査請求が認められれば、泊原発の設置変更許可が取り消されて再稼働できない。

6. 原発事故の危険性:放射性物質と化学毒の複合的影響による健康被害

  • 原発事故の危険性とは大量の危険物が遠方まで拡散・汚染する可能性であり、原発にある危険物とは原子炉などにある大量の核燃料と核分裂生成物である。
  • これらの危険物が核燃料棒に閉じ込められていれば危険性は低いので、そもそも、核燃料が溶ける事故が起きうる危険性の高い原発を国は許可してはならない。
  • なお、原発事故では放射線だけでなく、放出されたテルルなどの化学毒による複合的影響で、被曝だけでは説明し難い多様な健康被害が発生した可能性が高い(広島・長崎の原爆やビキニ水爆実験などの健康被害も化学毒の影響が考えられる)。

審査請求書は原子力規制委員会の以下リンク参照

「審査請求人から北海道電力(株)泊発電所3号炉の発電用原子炉設置変更許可に対する審査請求を受理」 https://www.da.nra.go.jp/detail/NRA100014065