本年5月に玄海町長が原発から出る高レベル放射性廃棄物(以下,核のゴミ)の文献調査受け入れを表明したことで,核のゴミの地層処分の安全性について関心が高まっている.地質学の専門家である角縁進氏にこの問題について,ZOOMによるオンライン講演会をお願いした.このオンライン講演会には関心のありそうな人々にもメールを通して案内したこともあり,当日は30名を超える参加があった.
角縁氏は,2023年10月に地層処分に関する声明文「世界最大級の変動帯の日本に,地層処分の適地はない〜現在の地層処分計画を中止し,開かれた検討機関の設置を〜」(注1)の呼びかけ人の一人である.同声明では,地殻変動が活発である日本では核のゴミを安定的に保存できる場所を選定できないとして,地球科学を専門とする300名を超える研究者.技術者・教育者が核のごみの地層処分の抜本的見直しを求めている.
<福岡核問題研究会>
日 時:7月20日(土)10:00~12:00
講 演:「核のゴミ地層処分〜玄海町は地層処分に適するか?」
講演者:角縁 進 教授(佐賀大学)
政府が核のゴミを地層処分すると決めたのは,2000年5月に国会で制定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」による.地層処分を行う事業主体として原子力発電環境整備機構(NUMO, Nuclear Waste Management Organization of Japan)が設立された.NUMOの計画では,最終処分施設建設地の選定は以下の調査を踏まえて進めていくという.①文献調査等により2007年頃に概要調査地区を選定,②概要調査地区のボーリング調査を行い2010年頃に精密調査地区を選定,③精密調査地区に地下施設を設置して地層を直接調査して2025年頃に最終処分施設建設地を選定.
これらの3段階の調査の後には,安全審査の実施や処分施設の建設があり,NUMOの計画は大幅に遅れており,最終処分の開始がいつのことになるか分からない.
NUMOは5月31日に「佐賀県東松浦郡玄海町 文献調査計画書」(以下,文献調査計画書)(注2)を発表した.2017年に経済産業省が公表した「科学的特性マップ」では,玄海町付近は石炭が埋蔵されており最終処分には「好ましくない地域」であるとしているが,文献調査計画書では一つの文献(注3)を引用して,その石炭が埋蔵されている地域は玄海町南部のほんの一部であるとしている.しかしNUMOは,玄海町が佐世保炭田に含まれると明示した文献(注4)については,まったく無視している.
火山や活断層などのリスクは処分施設の安全性に直接的に関わる.火山や活断層の近傍では最終処分地には適さないのは当たり前である.北波多村(現在は唐津市に合併,玄海町から15 kmの距離)には,枕状玄武岩が見つかっている.この玄武岩はK-Ar年代測定法では,182万年前と249年前であったという.これは,第四紀(260万年前から現代)に火山活動があったことを示している.
以上,玄海町は石炭層が分布しており,さらに第四紀に火山活動があったとこるから玄海町が15 km以内にあることから,核のゴミの地層処分には不適であると角縁氏は最終的に結論された.
(注1)https://cnic.jp/50160
(注2)https://www.numo.or.jp/press/20240531_bunken_keikakusyo_genkai.pdf
(注3)「日本鉱産誌V-a 石炭」(地質調査所編纂,1960年)
(注4)「日本地方鉱床誌」第9巻 九州地方(朝倉書店,1961年)
(報告者:三好永作)

