エッセィ・コラム2025/10/20 『 8月6日、ハレの路上にて』今井宏昌
第二次世界大戦終結から80年となる今年、私は偶然にもサバティカル(研究休暇)を取得することができ、6月末から8月半ばまでドイツに研究滞在する機会を得た。現地では終戦80年をテーマとする様々な催しが開催されており、私も研究仲間に誘われ、ポツダムで開催された1945年をテーマとするワークショップに参加するなどした。ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルによるガザでのジェノサイドが終息を見せず、さらには極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が台頭する中にあって、この80年をどう総括すべきかという問題意識は、現地で遭遇した議論をはじめ、ドイツ社会の中に全体として渦巻いていたように思う。 80年目の8月...
エッセィ・コラム<エッセイと討論のための広場No.4> 「方位磁石と渡り鳥の磁気感覚」(出口博之)
皆さんは,方位磁石(磁気コンパス)というと何を思い浮かべますか? 私は,小学生のころの遠足に持って行った水筒のキャップに小さな方位磁石が付いていたのを思い出します.あるいは,やはり子供の頃にオリエンテーリングという野外競技で,コンパスと地図を使ってチェックポイントを探し回ったことでしょうか.理科の実験で棒磁石のN極とS極を調べるのに用いたこともありました.大学教員になってからは,磁性体の研究(量子スピン系やナノ粒子の磁性)を専門としてきましたが,方位磁石はほとんど手にしませんでした.このエッセイでは,方位磁石についてのエピソードと渡り鳥の磁気感覚を紹介します. 国立大学の法人化前でしたから20...
エッセィ・コラム2024/12/23 コラム 日本酒造りは何が素晴らしいのか? ユネスコ無形文化遺産登録に寄せて
令和6(2024)年12月、日本酒や焼酎、泡盛、といった日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産へ登録された。筆者は、偶々、日本酒造りが盛んな城島町の地元で清酒造りについての勉強会に参加した。そこで、見聞したことをご紹介したい。世界の酒造りの多くは、「糖分+酵母+水」によるアルコール発酵である。麦芽を発酵させビールが、また、葡萄を発酵させワインが作られている。しかしながら、日本の酒造りが世界的に見て非常に貴重であるのは、アルコール発酵と同時に、「麹菌のアミラーゼ酵素によるデンプン加水分解」(麹菌は、醸造食品の製造用に培養されたカビの一種。麹菌のアミラーゼがデンプンを糖(グルコース)に分解し...
エッセィ・コラム2024/08/21 <エッセイと討論のための広場No.2>「旧優生保護法違憲判決と生殖医療技術」
7月3日,旧優生保護法(1948年成立,1996年「最終改正」としての母体保護法になる)によって様々な障がい等を理由に不妊手術を強制された人たちが国を訴えた裁判の判決において,最高裁判所大法廷は,「本件規定(旧優生保護法)は、憲法13条及び14条1項に違反するものであったというべきである。そして、以上に述べたところからすれば、本件規定の内容は、国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であったというべきであるから,本件規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1 条1項の適用上,違法の評価を受けると解するのが相当である(判例列記).」(下線は判決文に付されていたもの)と...