2025/07/26 AI問題研究会準備会の報告

 先の第55回福岡支部定期大会における提起に基づいて「AI 問題研究会」を立ち上げるべく、その準備的討論会が7月26日(土)14時から2 時間Microsoft Teamsオンライン形式で開催された。参加者数は5名であった。

先ず呼びかけ人の一人西垣が問題提起として発言した。冒頭、生成系AIの急発展を受 けて各メディアが、今まで指摘されて来たAIの問題点や危険性を後景に退けて、あらゆる分野の人々を、あたかもAI活用がいま最も急がれる技術革新であるが如くに駆り立てているが、西垣個人は、AI化は人間と社会をむしろ重要な変質に導く可能性が大である、と考えていることを前置きした。続いて、昨年のノーベル物理学賞受賞者ヒントン氏が、AIが人類最大の脅威になりうる危険性について警鐘を鳴らしていることを真剣に受け止める必要がある、と強調した。その機械学習技術を基礎に置くAIの「危険性」を云々する場合、危険性はその成功の陰で残っている技術の不完全部分故なのか、それともその成功故に負うことになった根本的問題点なのか、見極めが重要だとして、研究会ではAIの動作原理にまで遡って学習する必要性にも言及した。続いて西垣は、いまAIに牽引されたデジタル化変革(DXと略記する)が人間活動のほとんどの場へ侵蝕の手を伸ばし、その人間諸活動の形態を急激に変容させている、と訴え、研究会に幅広い分野からの参加が得られれば、それぞれの分野でのDXの実態を具体的に討議できる、と期待を表明した。更にその中で特に学校教育のDXと軍備のAI化の動向を取り上げ、今後研究会でも討論の俎上に挙げて欲しいと要望した。

以上の問題提起を受けて、参加者それぞれが現在AI化の進展をどう感じているか、意見を出し合った。(以下、メールで出された意見も含めた)

・大規模言語モデル(LLM)ベースの生成AIの利用は、大学の研究室でもすでに日常化している。高度な知識を質問しても答えてくれる。専門の論文の要約など、時間節約に便利だ。一方、学生がこれに頼るとどうなるか、心配である。

・インターネットとAIが結びついて、SNS上を真偽不明の情報が飛び交っている。政治運動にも利用されるし、権力者の側から偽情報を発するなど、危険な社会になっていく感じがする。

・物理学や化学の分野では、新しい組成の物質の開発について、量子力学に基礎を置くシミュレーションを行う代わりに、今まで発表されている膨大量の物性データの機械学習から、その物性を予測するという方向も生まれている。このような、コストと時間を意識したような方向性も科学の進歩と言えるだろうか。

・看護師の友人の話では、今、病院で外来や入院に関わる患者説明をする時に、それをタブレットに録音してAIに聞かせれば、そのAIが患者に必要な治療やケアの計画を立ててくれるそうだ。こうしてAIに判断を任せることで、逆に、医療者が自分の力で判断することができなくなりそうで不安だ、とも言う。

その他多くの問題点の指摘があったが、いずれ研究会で取り上げていきたい。研究会 の持ち方のについての要望としては、

・初めからあまり大きな課題とか、また根本的で難しい問題に立ち向かうのではなく、先ずは身近な問題で何が起きているかを討論したい。
・定期的に学習重視の会を開いて欲しい。AIのアルゴリズム構造などについても大まかな所を知りたい。
・メディアのAIに関する特別番組であっても、技術開発の最先端を知る材料として、また問題点を調べるたたき台としても利用できる。

以上の討論の後、参加者は、9月中をめどにAI問題研究会を発足させようと決めた。またその後のメール対話で、『日本の科学者』55, 59, 60巻にAIに関する論文が載せられているので、それらを含めて研究会での当面の学習・報告の的絞りを、呼びかけ人の間で行うこととした。
(報告者:西垣 敏)