2024/12/23 福岡核問題研究会の報告(10月例会,11月例会)

<福岡核問題研究会10月例会>
日時:10月26日(土)10:00〜12:00
話題:冷却水中の化学添加剤の水蒸気爆発への影響についての実験的研究の紹介
話題提供:三好永作

<福岡核問題研究会11月例会>
日 時:11月30日(土)10:00〜12:00
話 題:核ゴミ地層処分の危険性について〜玄海町における火山の影響〜
話題提供:北岡逸人氏

10月例会は,三好が9月例会(10月5日)において北岡氏から紹介されたY. Dengらによるスウェーデン王立工科大学の原著論文「冷却水中の化学添加剤の水蒸気爆発への影響についての実験的研究」(Y. Deng et al., Int. J. Heat Mass Transf. 218 (2024) 124818. “An experimental study on the effect of chemical additives in coolant on stream explosion”)の紹介を行なった.論文の概要は以下のようなものであった.
化学添加剤は原子炉冷却システムで広く使用されている.例えば,ホウ酸(H3BO3)は加圧水型軽水炉では中性子吸収剤として機能し,原子炉の安全性を確保している.しかし水蒸気爆発に対する化学添加剤の影響についてはこれまであまり注目されてこなかった.シビアアクシデントが起これば,冷却液の蒸発により,冷却液中のホウ酸濃度は,無視できるレベルから高濃度まで大幅に変化する可能性がある.ホウ酸の濃度が増すと酸性度が強くなり原子炉容器の金属腐食の原因となりうるので,NaOHやNa3PO4がpH調整のため使用される.
予備調査では,ホウ酸濃度が自発的な水蒸気爆発において重要な役割を果たしていることが明らかになった.そこで本研究では,1グラムの溶融液滴(Sn)をホウ酸とNa3PO4またはホウ酸とNaOHを含む中性溶液の水プールに放出し,溶融液滴と水の相互作用および自発的な水蒸気爆発の確率を調べた.同じ条件(溶融物の質量と温度,冷却剤の質量と温度等)下でそれぞれ20回の調査を行い,全部で140回の調査を行った.
溶融Sn液滴が冷却水に落下すると液滴表面に蒸気膜ができる.その後,液滴には断片化なし(現象A),軽度な断片化(現象B),水蒸気爆発(現象C)という3つの現象が起きうる.液滴を囲む蒸気膜がある点で破壊し始め,部分的な液滴表面が冷却水と直接接触することがあり,現象B, Cにつながる.現象Cと現象Bの違いはピーク圧力があるかないかである.
より強力な水蒸気爆発では,液滴がより細かく断片化される.したがって,デブリ粒子のサイズ分布は水蒸気爆発のエネルギーを示す指標となる.ほとんどの化学溶液での0.15 mm〜0.75 mmの微粉末は, 純水の場合の2倍生成している.化学添加剤を加えることで,水蒸気爆発の威力がより強力になったことが示された.
溶融Sn液滴とさまざまな冷却液を使って液滴と冷却液の相互作用および自発的水蒸気爆発のデータを得た.溶融液滴は,破砕のない変形,軽微な破砕,水蒸気爆発による微細な破砕という3つの異なる現象を経験する.ホウ酸溶液にNaOHやNa3PO4 を添加すると自発的水蒸気爆発の発生確率が大きく変化するので,PO43-やH+イオンの存在が自発的水蒸気爆発に影響があると考えられる.NaOHやNa3PO4を含む中性溶液中では,溶融液滴はより顕著に変形する.圧力センサーによって測定される水蒸気爆発のピーク圧力は,溶融液滴と冷却水の接触の開始点が液滴の底部ではなく側面にある場合に高くなる.化学溶液中での水蒸気爆発は純水での爆発よりもはるかに高いピーク圧力と衝撃を発生する.

11月例会は,「核ゴミ地層処分の危険性について〜玄海町における火山の影響〜」というテーマで北岡逸人氏に話題提供を頂いた.2024年5月に玄海町長が原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の文献調査受け入れを表明したことで,核のゴミの地層処分の安全性について関心が高まっており,北岡氏の独自の調査を基にした報告をしていただいた.この問題についての話題は,本年の7月例会で角縁 進 教授(佐賀大学)に講演をいただいたが,それに続いて2回目となる.
核ゴミの地層処分の危険性は,処分場が火山活動で被災した場合に最大化する.その場合,福島原発事故などより桁違いに深刻で超長期間におよぶ原子力災害発生することが心配される.理由は,汚染の原因となる放射性核種の量が地層処分場の方が格段に多いことによっている.
核ゴミの最終処分地は,第四紀火山(注1)の活動中心から概ね15km以内を避けるとの基準がある.北岡氏は,玄海町の近くで第四紀火山をデータベース等で調べたところ,玄海町の15km圏内には,加唐島(かからじま),鏡山(かがみやま),北波多(きたはた)の3つの第四紀火山がある.これらの3つの第四紀火山の活動中心から15km圏内を描くと玄海町は,それらの圏内に2重3重に入るという.この点から,玄海町は最終処分場の基準からみて明らかに不適切な場所である.
処分場をマグマが貫通して噴火した場合,大量の放射能が急激に地上に運ばれ,遠く離れた場所まで一気に汚染され,プルトニウムなどの毒性の強い物質も大量に拡散する恐れがある.原子力発電環境整備機構(NUMO)は包括的技術報告(付属書6-27「新規火山発生ケース」)で,火山が発生し処分場にマグマが貫入した場合の被ばくの評価を行なっているが,10万年後の評価のみで,また,マグマの通り道の領域に存在する放射性核種のみがマグマに取り込まれるとしか想定していない.10万年後までマグマが貫入しないという見方は余りにも楽観的に過ぎると思われる.
実際には,処分場のどこであれマグマが貫入すれば,処分場内部は周囲の岩盤より柔らかく隙間があるので,処分場の全域がマグマで満たされ,埋葬された放射性物質のほとんどがマグマに混入して噴出するものと考えられる.原発事故などより桁違いに多い放射性物質が溶岩や火山灰などの形で人間の生活圏に放出されることになる.
使用済み核燃料にある放射性物質は焼き固められたペレット内部に閉じ込められており,ペレットは細長い金属製の燃料被覆管に入っていて,被覆管は原子炉内の高温・高圧に耐えている.原子炉から取り出した直後の使用済み核燃料は冷却水で冷やさなければ危険であるが,温度が下がれば空冷保管が可能となる.これらを原発敷地や中間貯蔵施設などに保管するのは最善とは言えないが,重大な事故は発生していない.北岡氏は,使用済み核燃料を再処理せずに直接処分にして,しかも一ヶ所に大量に集めて管理するよりは,分散して管理する方が良いのではないか,と述べられた.

(注1)第四紀(約260万年前から現代までの期間)に活動した火山をいう.
(報告者:三好永作)