2024/12/23 2024年度のJSA九州沖縄シンポジウムの報告

「佐賀から見える日本の平和と暮らしへの深刻な脅威を科学する」をメインテーマに2024年度のJSA九州沖縄シンポジウムが11月10日(日)に佐賀市のメートプラザ佐賀で対面とオンラインのハイブリッド形式で開催されました.久々に対面で行われたシンポジウムでしたが,九州各地のJSA会員と佐賀の様々な運動に取り組む市民の皆さんを中心に会場の参加者36人とオンラインでの参加者19人を合わせて55人が参加してテーマにあるように佐賀で起こっている日本の平和と暮らしに関わる3つの問題について講演と討議が行われました.
「第1部 佐賀空港のオスプレイ基地化と戦争準備をめぐって」では,オスプレイ裁判支援市民の会の蒲原嘉一さんが,市町村合併の前から現在の佐賀市の有明海沿岸部で始まった耕作地拡張のための埋め立てから,それが減反政策に関わって佐賀空港建設への転換,そして佐賀空港への自衛隊駐屯の問題の生起までの経緯を詳しく解説してくれました.また,そうした佐賀空港の軍事利用の動きに対して市民が佐賀空港自衛隊駐屯地建設工事差止め訴訟を起こしたことについても詳しく紹介がありました.佐賀空港は県営の空港であるにもかかわらず,県が国の言いなりになって空港に隣接する場所に自衛隊の駐屯地建設が進められている実態を様々な事実を示して明らかにされました.
蒲原さんの講演に続いて,オスプレイ配備反対佐賀県連絡会事務局長の池崎基子さんは,岸田政権が閣議決定した安全保障関連3文書の下,全国各地で日米共同訓練が激化していることを指摘され,自衛隊が米軍に組み込まれる体制になってしまうと告発しました.その中で,佐賀空港に配備されようとしているオスプレーが欠陥軍用機であることは米軍自体が認めるところでありながら,各地方空港をたらい回し的にされ,佐賀空港に押しつけられようとしていることも指摘されました.
「第2部 有明海訴訟をめぐって」では,よみがえれ有明訴訟・事務局の林田直樹さんが,諫早湾干拓事業(諫干)と有明訴訟のこれまでの経過を詳しく報告され,「潮受け堤防の開門こそが有明海再生への一番の近道であり,有明海や地域の再生については最終的には世論が決めるべき」と訴えられました.
続いて,佐賀大学農学部で沿岸海洋学を専門とされている速水祐一さんが,まず,諫早湾干拓による潮汐・潮流変化について最新の科学的知見を解説されました.最初に,宇野木(2002)の論文で有明海では 1988 年頃から顕著な潮汐の減少が起きていることと,その原因は諫干が約 65%と考えられること等が示されたことが紹介されました.しかし,一方で武岡(2003)の論文で,実際の潮汐の変化には月昇交点運動の影響(fの効果)が含まれ,その影響は諫干によるとされた変化より大きいことが示されたこと,fの効果を含めた潮汐振幅は諫早湾閉めきりの頃に極大で,その後 2006年にかけて減少しており,漁業者の実体験と整合的であることが紹介されました.また,田井・田中,(2014)の論文で,この閉めきりに伴った潮流の変化を数値シミュレーションした結果では,諫干の影響で諫早湾内では大きく潮流が減衰し,諫早湾口~島原半島沿岸でも減衰した一方で,有明海奥部ではほとんど変化は無く,fの効果の方がはるかに大きいことが示されていることも紹介されました.さらに,諫干の環境影響については,閉めきりに伴った潮流の変化によって湾内の成層が強化され,それが赤潮増加・貧酸素悪化をもたらしたと言われているが,速水・山口(2008)の論文では,有明海奥部の夏季のモニタリングデータからは閉めきり後に成層が強まった様子は認められないと報告されていることも紹介されました.
有明海の赤潮の原因についても,諫早湾の閉めきりの影響についての評価に異なる報告がなされていること,各報告で赤潮の発生の測定の方法に統一性がないこと等も指摘されました.
講演を聴いて,有明海の潮流や海水の状態の変化,さらにはそれらの生態系へ与える影響についての研究の難しさを感じました.講演の最後で潮受堤排水門開門の影響についてのシミュレーションをした結果から色々なリスクもありうると示唆されたことや東ら(2019)が行った2002 年の短期開門後の有明海奥部におけるベントスのモニタリングでは開門後に大きく生物量が増たことが報告されており,生物プロセスとしては開門による環境改善の可能性があることを示していることも紹介されました.その上で,開門を行う場合は,上記のようなシミュレーションで示されたリスクを伴うことを理解した上で,洗掘と貧酸素化を最小限に抑えるような方法(潮受堤の開門を南端部でまず開門し時差をとって北端を開けるなど)で実施すべきとの意見も述べられました.
「第3部 玄海町の地層処分問題をめぐって」では,佐賀中央法律事務所・弁護士の東島浩幸さんが最終処分場のかかえる問題点と玄海町による高レベル放射性廃棄物の最終処分に向けた文献調査の受け入れの経緯とを説明されました.そして,玄海町が文献調査の受け入れを決定する前に町民への説明や議論が行われなかったこと等から,町の決定があまりにも拙速で住民の意見を無視したものであると指摘しました.
次に宮崎大学教育学部・地質学の山北聡さんが「玄海町地層処分問題,コメント −地質学的見地から−」と題して講演されました.山北さんは,まず,地層処分の地質学的条件は10万年単位で地下の岩石中に安定的に保管する必要があり,特に地下の流体によって地表へもたらされないことが必要で,日本においては地下深部に至る花崗岩層に限られることを説明されました.また,火山活動(マグマの活動)がないこと地震・断層活動がないことが必要であることも指摘されました.
その上で日本列島の成り立ちと,玄海町周辺の地質の特徴を丁寧に説明し,この地域に花崗岩層が少しは分布しているが,火山活動,断層・地震活動の可能性が否定できず,適地とは判断できないと指摘されました.火山活動については,プレートの境界から少し離れたところで海水の浸透と圧力によってマグマが形成されて起こるが,プレート境界からマグマができる位置が決まりそれが九州の火山帯を形成していることを詳しく説明されました.しかし.そこだけではなくそれよりもプレート内部の方へ離れた地域では何処でも火山活動は起こりうること,したがって,玄海町も火山活動が起こらないとは断定できないと説明されました.断層・地震活動については3つのプレートの境界上にある日本においてそれを回避できる地域はまずないと指摘されました.
以上のように今回のJSA九州沖縄シンポジウムは,様々な問題に科学者が果たす役割の重要性を感じさせられるものでした.
なお、シンポジウムの翌日に宮崎支部事務局長の木下統さんが、オスプレイの基地化されようとする佐賀空港を見に行かれたときの報告を提供してくださったので,次にそれを掲載します。  (小早川義尚)