政府は2024年12月2日に現行の健康保険証の新規発行・再発行を終了し,保険証をマイナンバーカードに統合するとしています.しかし,情報システム学会(https://www.issj.net/)はマイナンバーシステムそのものについての懸念を表明し,全国保険医団体連合会(https://hodanren.doc-net.or.jp/)はマイナンバー保険証に関する多数のトラブルを報告しています.この先,マイナンバーシステム,マイナンバー保険証は正常に稼働するのでしょうか.福岡支部では情報システム学会が発表した提言を参考に意見を交わす場を設けました.
少し話は遡ります.2006年に誰のものか不明な年金記録があることが判明し,当時,社会保険庁に様々な不備もあったことから,社会保険庁そのものが廃止になりました.データの統合に失敗した年金記録の一部は今も宙に浮いたままです.
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・2007年2月に社会保険庁は基礎年金番号への過去記録の統合・整理等を進めるとしたが、2006年6月時点において、コンピュータに記録(年金番号)があるものの、基礎年金番号に統合・整理されていない記録が約5000万件(厚生年金番号4000万件、国民年金番号1000万件)あることが判明し、社会保険庁が年金記録をきちんと管理していないことが指摘された。
・納めたはずと主張する国民年金保険料の納付記録が、社会保険庁のデータ(年金記録)や自治体の台帳に記録および記載されておらず、保険料の領収書を残していなかったことで客観的な納付証明ができず納付と認められないケースや、給料から天引きされていたはずの厚生年金保険料の納付記録(被保険者記録)が、社会保険庁のデータにないことが判明したケースがあった。
(Wikipedia,年金記録問題から抜粋)
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この年金記録問題が発生した原因等について,情報システム学会の会員の方が参加した座談会の記録を見ることができます.
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情報社会の新たな課題~消えた年⾦のシステム問題~
•私は、官公庁のITシステムに関しては、アウトソーシングという視点から⾒たときには第2、第3の年⾦問題のようなトラブルが出てくる可能性が、ものすごく⾼いと思っています 。
•⼤量の不良データがあることが分かっていてリリースしたという事実ですね。オンライン化の前に分かったのにそのままシステムに載せてしまった。
•異動などによってどんどん不明データが増えるしくみになっていたんです。ただしこの問題は、今回の場合は⼤きな問題になったんですけれども、絶対的な問題ではない。データさえ正確だったら。直しは全部できますから、⼤丈夫なんです。
•おっしゃりたいのは、その間にシステムのデータ不備を直すチャンスがあったけれども、やらなかったという話ですね。
(TECH.ASCII.jp,「情報システム学会・年⾦記録管理システム問題検討プロジェクトチーム」座談会(2010/04/26),https://ascii.jp/elem/000/000/506/506722/ より抜粋)
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情報システム学会は,今回のマイナンバーシステムにおいても懸念を表明し,提言を行なっています.
・「マイナンバー制度の問題点と解決策」に関する提言(2023/10/10)
・「マイナンバー制度の問題点と解決策」に関する提言の補足(2024/07/03)
(情報システム学会 社会への提言など,https://www.issj.net/teigen/teigen.html)
2023年の提言において「マイナンバー制度の根本的な設計不良に起因して発生する問題」があると指摘しています.
1. マイナンバー制度で実現させようとしていることが多すぎる問題.
2. 誤った名寄せの問題(準備不足)
(名寄せ:複数のデータソースから,同一の個人のデータを取得し連携してまとめる作業)
1. に関しては,マイナンバーカードに保険証,免許証の統合を目指し,取扱等に齟齬をきたしています.以前の住基カードは用途が限られたことが失敗の原因とも言われており,マイナンバーカードでは様々な用途に使用可能になるとしています.
2. については,マイナンバーを特定個人情報としたため名寄せ用の番号として使えなくなりました.現在は「氏名,(フリガナ),性別,生年月日,住所」を用いて名寄せを行なっていますが,歴史的変遷を重ねた文字コード,外字,漢字の異字体の問題は解決していません.マイナンバー保険証の照合において漢字が●で表示されるのは,文字コードや外字の問題が解決されていないためと思われます.氏名のフリガナが法律的に戸籍に登録されるのは,来年,2025年5月以降です.根本的な準備不足が指摘されています.
現在,「地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化」作業を行なっています(デジタル庁,総務省).複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システム対策として,2025年度末を期限に地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化を推進しています.しかし,自治体,ベンダーの対応が間に合わず,大幅な作業の遅れが報道されています.こちらも準備不足が危惧されます.
(文責:中野)

